PIPとは何でしょうか?
PIPを実施すれば、外国人労働者を解雇することができるのでしょうか?
PIPとは、Performance Improvement Plan(業務改善計画)という、業務改善のための手法を言いますが、PIPを実施したとしても、それだけで必ずしも外国人労働者を解雇することはできません。
PIPと解雇
PIP(Performance Improvement Plan)とは、ブルームバーグ・エル・ピー事件(東京地判平24・10・5)によれば、
「パフォーマンスに対する課題点を指摘し、その改善に取り組ませることを目的として」、
「アクションプランへの取組を命じ」、
「以後同プランに基づく原告のパフォーマンスをモニターし、約1か月後に達成状況についてのフィードバックを行うこと」を
いいます。
具体的には、
「従業員の同意の下に改善項目を設定し、本人に改善項目ごとに改善計画を出させ、PIPは期間をおいて、何度でも繰り返され、それを達成できたか否かを定期的に人事部、上司、本人が共同で検討していくという手法」を言うとされています。
元来はアメリカで、個々の従業員の業務遂行能力を改善し、業績を向上させる目的で導入されたもので、日本でも、主に外資系企業で当該手法が用いられる例が見られます。
PIPを実施した後にした勤務能力ないし適格性の低下を理由とする解雇の有効性が争われた事件として、上記の「ブルームバーグ・エル・ピー事件」が挙げられます。
会社が単にPIPを実施しただけでは、解雇が有効になるとは言えず、当該外国人労働者が、労働契約時に合意した能力とは著しく異なっており、また指導を行っても改善がなされず、今後改善の余地もなく、解雇をする以外に採るべき手段がないというような場合にのみ、解雇は有効になると言えます。
ブルームバーグ・エルピー事件(東京地判平24・10・5)
この事件は、他の通信社において、13年間記者として勤務していた原告が、一般顧客向けに経済・金融情報を提供する通信社である被告会社に入社し勤務していましたが、入社から約4年後、被告会社からパフォーマンスに対する課題点の改善に取り組ませることを目的としたPIPを3度にわたり命じられ、3回目のPIPが終了した頃、自宅待機命令の後、解雇が行われたため、原告が被告会社に対して、解雇の有効性を争ったという事件です。
裁判所は、「勤務能力ないし適格性の低下を理由とする解雇に「客観的に合理的な理由』(労契法16条)があるか否かについては、
まず、
①当該労働契約上、当該労働者に求められている職務能力の内容を検討した上で、当該職務能力の低下が、当該労働契約の継続を期待することができない程に重大なものであるか否か、
②使用者側が当該労働者に改善矯正を促し、努力反省の機会を与えたのに改善がなされなかったか否か、
③今後の指導による改善可能性の見込みの有無等の事情を総合考慮して決すべき」
としました。
そして、裁判所は、被告会社が不足する能力として指摘していた、執筆スピードの遅さや、記事本数の少なさ、記事内容の質の低さについて、被告会社が具体的な改善矯正策を講じていたとは認められない、あるいは原告が改善する姿勢を示していた等として、それらの事由について「客観的に合理的な理由」があるとは認めず、解雇は無効である旨判示しました。