外国人労働者が、不注意な操作で会社の機械を損壊してしまった場合、損害賠償請求をして、これを弁償してもらうことは可能でしょうか?
外国人労働者が、不注意な操作で会社の機械を損壊してしまった場合、弁償をしてもらえる場合はありますが、安易にすべて弁償をさせることについては問題があります。
責任を負わせる損害額を制限することが多い
労働者が業務上の不注意で、会社に損害を生じさせた場合、使用者は労働者に対して、債務不履行(民法415条)や不法行為(民法709条)を理由として、損害賠償請求をすることができます。
もっとも、裁判例等に照らすと、無制限に責任を認めているわけではなく、故意や重大な過失がある場合に限り、損害賠償請求を認めたり、損害賠償の責任を認める場合であっても、責任を負わせる損害額を制限したりすることが多いです。
裁判例では、労働者が居眠りにより、操作を誤って高価な機械を破損した事案において、労働過程上の軽微な過失に基づく事故については、労働関係における公平の原則に照らして、使用者は、労働者に対し、損害賠償請求権を行使できないと解するのが相当であるとしたものがあります。
なお、本裁判例は、労働者の重大な過失を認めた上で、使用者も機械保険に加入する等の損害軽減措置を講じていないことなどを考慮して、損害額の4分の1の限度で使用者から労働者に対する損害賠償請求を認めました。
(大隈鐵工所事件・名古屋地判昭62・7・27)
そして、業務中に労働者が交通事故を起こし、会社が一度損害の肩代わりをした後、従業員に請求(求償)したケースでは、最高裁は「使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り、又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被った場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し、損害の賠償又は求償の請求をすることができる」と判示し、損害額の4分の1の限度で、労働者の責任を認めました。
(茨城石炭商事事件・最判昭51・7・8)
損害の公平な分担といった見地から損害額を決める
そのため、本ケースにおいても、労働者の不注意な操作で会社の機械を損壊したとしても、安易にすべてを弁償させるのではなく、労働者の不注意がどの程度のものなのか(重大な過失といえるのか、軽過失にとどまるのか)、重大な過失といえる程度であったとしても、使用者側で損害発生の防止や軽減のためにどのような措置を取っていたかなどの諸般の事情に鑑みて、損害の公平な分担といった見地から、労働者に負担してもらう損害額を決める必要があります。
なお、労働契約の債務不履行について、あらかじめ違約金を定めたり、損害賠償額を予定する契約をしたりすることは、労基法16条により禁止されていますので、この点についても、留意する必要があります。