家事事件

法律相談

私は外国人の女性ですが、1983年1月2日に、日本国内で、日本人男性Aとの間に子Bを生みました。Bの出生後、AはBを認知してくれましたが、私と結婚するつもりはないようです。Bは日本国籍を取得できるのでしょうか。

 

父母が婚姻していない場合でも、日本人父Aの生後認知により、Bは日本国籍を取得できる可能性があります。

1 生後認知による国籍取得(国籍法3条1項の改正)

生後認知による国籍取得は、2008年12月12日の国籍法改正(2009年1月1日施行)によって明文化された国籍取得原因です。

改正前国籍法3条1項は、父母の婚姻前に出生した20歳未満の子について、父母の婚姻、及び、日本人親による生後認知を要件として、その子に日本国籍を付与していました(準正による国籍取得)。

しかし、改正前国籍法3条1項は、後記のとおり、【最大判平成20・6・4民集62巻6号1367頁】(以下、「2008年判決」という)により違憲と判断されたため、2008年12月に改正されました。

2 2008年判決の概要

上記の事件は、婚姻していない日本人父とフィリピン人母との間に日本国内において生まれた子が、日本人父から生後認知を受けたことを理由として、国籍取得届を提出したところ、父母が婚姻していないため、国籍取得の要件を備えておらず、日本国籍を取得していないと判断されたため、日本国籍を有することの確認を求めて提訴されたものです。

日本人父に生後認知された子について、父母が婚姻している場合であれば日本国籍を取得できるが、父母が婚姻していない場合には日本国籍を取得できないとする改正前国籍法3条1項の扱いについて、2008年判決は「日本国民である父から出生後に認知されたにとどまる非嫡出子のみが、日本国籍の取得について著しい差別的取扱いを受けているものといわざるを得ない」とし、改正前国籍法3条1項が「父母の婚姻」を国籍取得要件としていることは憲法14条1項に違反すると判断しました。

3 改正後国籍法3条1項の内容

前記判決を受けて、2008年12月12日、国籍法3条1項は「父又は母が認知した子で20歳未満のもの(日本国民であつた者を除く。)は、認知をした父又は母が子の出生の時に日本国民であつた場合において、その父又は母が現に日本国民であるとき、又はその死亡の時に日本国民であつたときは、法務大臣に届け出ることによって、日本の国籍を取得することができる。」と改正されました(2009年1月1日施行)。

前記改正により、父母の婚姻の要件は削除され、下記要件を満たせば、改正後国籍法3条により、日本国籍を取得できることになりました。

(1)日本国籍を取得しようとする者が、
①父又は母に認知されていること
②(後記(3)の届出時において)20歳未満であること
③日本国民であったことがないこと
④出生したときに、認知をした父又は母が日本国民であったこと

なお、認知は、「嫡出でない子」のみが対象です(民法779条)。

例えば、婚姻中の外国人母が夫以外の日本人男性との間で懐胎した子については、夫の嫡出子と推定されるので、その日本人男性は認知ができない可能性があります。

その場合には、認知に先立って、親子関係不存在確認の訴えを起こし、嫡出推定を排除しておく必要があります。

(2)認知をした父又は母が、現に(死亡している場合には死亡したときに)日本国民であること

(3)法務大臣に対する届出

この届出は、本人(15歳未満のときは法定代理人)が届出先機関(本人が日本に住所を有する場合には住所地を管轄する法務局・地方法務局、本人が海外に住所を有する場合には日本の大使館又は領事館)に対して書面によって行う必要があります。

認知だけではなく、届出時においても20歳未満であることが必要なので、年齢が切迫している場合などには注意が必要です。

なお、2018年6月に民法上の成人年齢が18際に引き下げられたことに伴い、国籍法3条1項も20歳から18歳に引き下げられました(2022年4月1日施行、ただし経過措置あり)。

4 認知調停の活用

国籍法3条1項の改正を受け、子どもに日本国籍を取得させるために虚偽の認知届等を提出する「偽装認知」が社会問題となり、行政機関は認知偽装の有無に関して慎重に審査しています。

そのため、審査を円滑に進めるべく、任意認知(父による自発的な認知)ではなく、「認知調停」を活用することも考えられるところです。

認知調停とは、子などから父を相手として認知を求めて申し立てる家庭裁判所の調停手続です。

この調停において、当事者間で子どもが父の子であるという合意ができ、家庭裁判所がDNA鑑定等の必要な事実の調査を行った上で、その合意が正当であると認められれば、合意に従った審判がなされます。

認知の正当性を裁判所に認めてもらうことにより、行政機関の審査も円滑に進むことが期待できます。