家事事件

法律相談

私(A)は1995年に、私の兄(B)は1983年に、アメリカにおいて、アメリカ人父と日本人母との間に生まれました。私Aと兄Bは、出生した時点でアメリカの国籍のほかに日本の国籍も取得しているのでしょうか。

 

外国人父と日本人母の間に生まれた子は、出生日が1985年1月1日以後であれば、出生地にかかわらず、出生により日本国籍を取得できます。

1日本国籍の取得原因

日本の国籍法は、国籍取得原因として、
①出生による国籍取得(国籍法2条)、
②生後認知による国籍取得(3条)、
③帰化による国籍取得(4条)を定めています。

本事例では、これらのうち、出生による国籍取得について取り上げます。

2日本の国籍法における扱い

日本の国籍法は、従前は「出生の時に父が日本国民であるとき」に子は日本国籍を取得すると規定して、父系血統主義(父がその国の国籍を有する場合に限り、その国の国籍を子にも付与するという主義)を採用していました。

しかし、女子差別撤廃条約の批准に先立ち、国内法を同条約に整合させる必要があったことなどから、1984年の国籍法改正(以下、「1984年改正」という)により、父母両系血統主義(父又は母のいずれかがその国の国籍を有していれば、その国の国籍を子にも付与するという主義)が採用され、「出生の時に父又は母が日本国民であるとき」に、子は日本国籍を取得すると改められました(国籍法2条1号)。前記1984年改正は、1985年1月1日から施行されています。

国籍法2条1号の「出生の時に父又は母が日本国民であるとき」とは、子と日本国民である父又は母との間に法律上の親子関係があることを意味しています。

もっとも、分娩の事実によって法律上の母子関係は成立するとされているので、日本人女性から生まれた子については、当然に「出生の時に母が日本国民であるとき」にあたり、日本国籍を取得します。

これに対して、法律上の父子関係は、
①子が父の嫡出子である場合か、
②父から胎児認知されている場合
でなければ成立しません。

嫡出子とは、婚姻中の夫婦から生まれた子のことをいいます。

婚姻成立の日から200日を経過した後、又は、婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子であれば、夫の嫡出子と推定され、嫡出子の身分を取得します(民法772条)。

また、婚姻成立後200日以内に生まれた子についても、民法772条による嫡出推定は受けませんが、出生と同時に嫡出子の身分を取得するとされています【大連判昭和15・1・23大審院民集19巻54頁】。

これらの場合には、子は父の嫡出子となり、法律上の父子関係が成立します。

また、胎児認知とは、母の胎内にある子を、母の承諾を得て認知することをいいます(民法783条)。

なお、国籍法2条2号は「出生前に死亡した父が死亡の時に日本国民であつたとき」にも、子は日本国籍を取得すると規定しています。これは、子の出生後に日本人父が死亡したか、子の出生前に死亡したかによって異なる扱いをすべきでないことを考慮して設けられた規定です。

3本事例について

|父系血統主義から父母両系血統主義への国籍法改正(1984年改正)は1985年1月1日から施行されていますので、1985年1月1日以後に出生した子には父母系血統主義が適用されます。

したがって、1995年に出生した本事例のAには、父母両系血統主義が適用されるところ、Aはアメリカ人父と日本人母の間に生まれており、「出生の時に母が日本国民であるとき」にあたるため、出生により日本国籍を取得することになります。

同時にAは、生地主義を採るアメリカで生まれているため、出生によりアメリカ合衆国の国籍も取得することになります。

ただし、出生により外国の国籍を取得した日本国民で、日本国外で生まれた者は、一定期間内に日本国籍を留保する意思を表示しなければ、その出生のときにさかのぼって日本国籍を失うとされています(国籍法12条)。

これに対して、1984年12月31日以前に出生した子には、前記1984年改正は原則として適用されませんので、改正前の父系血統主義が適用されます。

したがって、1983年に出生した本事例のBには、父系血統主義が適用されるところ、Bの父は日本人ではないので、Bは出生により日本国籍を取得することはできません。生地主義に基づいて、出生によりアメリカ合衆国の国籍のみを取得することになります。

もっとも、Bは、改正法施行時20歳未満でしたので、施行日から3年以内であれば特例措置により国籍を取得できる可能性がありました(附則〈昭和59・5・25法45〉5条)。

しかし、Bが前記期間内に特例措置による国籍取得手続を行っていなかった場合には、帰化による国籍取得等を検討することになります。