家事事件

法律相談

①私は日本で2010年に韓国人の母から生まれました。父親は不明で母に育てられています。在留カードの国籍は韓国となっていますが、大使館に出生届は出されていません。私は無国籍者として日本国籍を取得していますか。

②私は2010年に日本の産院で産まれました。病院の記録では、私の母は、カトリーナ・スミスというそうですが、出産後まもなく病院を後に消息を絶ってしまったそうです。産院の院長によって出生届が出されましたが、私は日本国籍を取得していますか。

 

本事例①の相談者は日本国籍を取得していません。
本事例②の相談者は父母が不特定である以上、日本国籍を取得しています。

1「法律上の無国籍者」と「事実上の無国籍者」

日本の国籍法は、出生による国籍取得について父母両系血統主義を原則としています(国籍法2条1号)。

しかし、この原則だけによると、父母がともに分からない場合などに子が無国籍者となってしまう可能性があります。

ここで、無国籍者とは、国籍を持たない人、どこの国からも国民と認められていない人を指します。その意味では、本事例の相談者はいずれも無国籍者といえます。

本事例①の相談者は、韓国人母の子です。韓国では、1997年の国籍法改正により、父系血統主義が父母両系血統主義に改められました。

そのため、本事例①の相談者は韓国国籍の取得要件を満たしているので、韓国大使館で国籍取得手続をすれば韓国国籍の取得が認められます。

しかし、現状では、韓国大使館に出生届が出されておらず、韓国から国民と認められていないため、無国籍状態となっています。

このように、法的にはいずれかの国の国籍取得要件を満たしているけれども、当該国に国民として記録されていない人を「事実上の無国籍者」といいます。

これに対して、いずれの国の法律の適用によっても、いずれの国の国民と認められていない者のことを「法律上の無国籍者」といいます(「無国籍者の地位に関する条約」1条1項)。

本事例②の相談者は、父母が不明で、日本で出生しているため、日本国籍の取得が認められなければ、この「法律上の無国籍者」にあたるということになります。

2日本国籍の取得が認められる無国籍者

国籍法は、日本で生まれた子が、「父母がともに知れないとき」又は父母が「国籍を有しないとき」について日本国籍の取得を認めています(国籍法2条3号)。

本事例①の相談者は韓国人の母がいますので、国籍法2条3号による日本国籍の取得は認められません。

他方で、本事例②の相談者は、カトリーナ・スミスという国籍不明の母親から生まれていますが、出生後、母親が行方不明となっているので、同号が適用されるかが問題となります。

父母の不明な棄児が発見され、その申出があった場合には、市町村は棄児に氏名、本籍を定めることとなっています(戸籍法57条)。

本事例②の相談者の場合には、産院の医師が母親をカトリーナ・スミスとして出生届を出したことから、棄児と異なり戸籍が編成されなかったものと思われます。

棄児の場合には「父母がともに知れないとき」にあたり、日本国籍を取得することは明らかですが、本事例②の相談者の場合にも「父母がともに知れないとき」にあたるといえるのでしょうか。

3アンデレ事件

国籍法2条3号の「父母がともに知れないとき」の要件の解釈が争われた判例にアンデレ事件があります。

この事件では、1991年1月18日に出生した子アンデレの母親につき、産院に、「セシリア M ロゼテ」
(「Cecilee M. Rosete」又は「Cecille M. Rosete」、生年月日1965年11月21日)との記録がありましたが、母親は出産5日後に行方不明になってしまい、子は無国籍で外国人登録されていました。

訴訟では、国から1988年2月24日にフィリピンからフィリピン国籍の「Cecillia m Rosete」(生年月日1960年11月21日)という女性が日本に入国したとの記録が提出されました。

この事案で、最高裁は、「ある者が父又は母である可能性が高くても、これを特定するに至らないとき」には「父母がともに知れないとき」にあたると判示し、子の母親は特定されていないとして、子に国籍取得を認めました【最判平成7・1・27民集49巻1号56頁】

この判例の解釈によれば、本事例②の相談者も父母が特定されていない以上、「父母がともに知れないとき」にあたり、日本国籍を取得しているといえます。

そこで、相談者は家庭裁判所に就籍許可を求める審判を申し立て、家庭裁判所の許可に基づき就籍する方法が考えられます。