家事事件

法律相談

私は、1970年に中国で、中国残留日本孤児の父母(いずれも日本国籍)の間に生まれました。現在、中国で生活し、2000年に中国人男性と結婚した際に、申請により中国国籍を取得し、2001年に長男を出産しました。
私は日本国籍を取得していますか。
私の長男はどうですか。

 

相談者は出生により日本国籍を取得しています。その後の中国国籍の取得が中国での生活を維持していく上での重大な支障を避けるためにやむなくされたものであれば、日本国籍を喪失していません。
相談者の長男は、相談者が日本国民であっても既に国籍を喪失していますが、20歳になるまで(18歳になるまで)は、日本に住所を取得すれば国籍を再取得できます。

1相談者について(国籍の喪失)

相談者は日本人の父の子ですから、国籍法2条1号(1970年当時は父系血統主義)に基づき、日本国籍を取得しています。

もっとも、相談者が現在でも日本国籍を有しているといえるためには、国籍喪失事由がないかも検討する必要があります。

国籍法は、国籍喪失事由として、
①自己の志望での外国国籍の取得(国籍法11条1項)、
②重国籍の日本国民の外国国籍の選択(同条2項)、
③国外出生の場合の国籍不留保(国籍法12条)、
④法務大臣への届出による国籍離脱(13条)
を定めています。

本事例の相談者の場合には、③国籍法12条、①国籍法11条1項による国籍喪失が発生していないかを検討する必要があります。

(1)国籍法12条による国籍喪失

「出生により外国の国籍を取得した日本国民で国外で生まれたもの」(1984年改正前は「外国で生まれたことによってその国の国籍を取得した国民」)は、原則、出生後3か月以内に、出生届とともに国籍留保の意思表示をしなければ、出生にさかのぼって国籍を失うことになります(国籍法12条、旧国籍法9条、戸籍法104条)。

国籍法12条(旧国籍法9条)は、1984年改正前は、出生地主義を採用した国の国籍法により、その国の国籍を取得した日本国民のみを適用対象としていましたが、1984年改正で、広く海外で出生し外国の国籍を取得した日本国民に対象範囲が広げられました。

相談者は日本国外で1970年に出生しているので、旧国籍法9条の適用について検討が必要です。

中国は血統主義を採用し、出生地主義を採用していないので、相談者は旧国籍法9条の適用対象にはなりません。

したがって、旧国籍法9条によっては、日本国籍を喪失しません。

(2)国籍法11条による国籍喪失

次に相談者は、2000年に中国人男性と婚姻した際に、中国国籍を取得しているので、自己の志望での外国国籍の取得による国籍喪失の有無を検討します。

国籍法11条1項は、「自己の志望によって外国の国籍を取得したとき」を国籍喪失事由としていますが、これは婚姻などの一定の事実により当然に外国国籍を取得する場合ではなく、帰化や届出など、本人の外国国籍の取得を希望する意思表示に基づき、国籍を取得した場合を指します。

本事例の相談者は、中国人男性と婚姻した際に本人の申請により中国国籍を取得していますので、同条項により日本国籍を喪失しているとも思えます。

もっとも、「自己の志望」というためには、本人の申請による国籍取得でも、本人の自由意思に基づき任意になされたことが必要であるといわれています。

また、国籍確認訴訟においては国籍喪失を主張する国がその立証責任を負担するとされています。

裁判例においては、中国残留邦人が中国国籍を取得したため、日本の戸籍から除籍された事案で、日本の国籍確認を求めたのに対して、「自己の志望」によるとの証明がないとして、国籍が確認された例があります【東京地判昭和54・1・23判夕377号129頁、同平成7・12・22行裁集46巻12号1205】。

また、原告の父が、原告の出生前に中国国籍を取得した事例でも、同様の理由から、原告の出生による日本国籍取得が確認されています【東京地判平成7・12・21家月48巻5号84頁】。

したがって、本事例でも、相談者が、中国での生活を維持していく上での、生活の支障を避けるために、やむなく中国国籍を取得したという事情があれば、相談者は国籍を喪失していないことになります。

(3)就籍許可の審判と国籍確認訴訟

では、相談者がやむを得ない事情で、中国国籍を取得したといえる事案の場合、相談者はどのようにすれば日本の戸籍を取得できるのでしょうか。

日本国籍を有する者が本籍を有しない場合には、家庭裁判所の許可を得て、就籍の届出をし、戸籍を取得することができます(戸籍法110条)。

そのため、実務では、本事例のような残留邦人の事案では、就籍許可を求める審判を家庭裁判所に申し立て、家庭裁判所の許可に基づき、就籍することが行われています。

この審判手続の中で、家庭裁判所が職権調査事項として、日本国籍の有無を判断することになります。

他方、家庭裁判所で就籍許可申立が却下された場合など、国籍の有無に争いがある場合には、国籍確認又は不存在の確認訴訟を提起し、国籍確認の確定判決に基づき、就籍の手続をすることになります。

2相談者の長男(国籍の再取得)

相談者が日本国籍を取得していれば、1984年改正後の父母両系血統主義の現行国籍法2条1号により、相談者の長男も出生により日本国籍を取得していることになりますが、長男についても、国籍法12条により国籍を喪失していないかを検討する必要があります。

相談者の長男が出生したのは2001年であるため、相談者と異なり、現行国籍法12条の適用対象となります。

そのため、中国が血統主義を採用していても、相談者が出生により、中国国籍を取得していれば、国籍喪失事由となります。

相談者の長男は、父親が中国人であるため、出生により中国国籍を取得している(中国国籍法4条)ので、これに該当します。

したがって、相談者か相談者の夫が日本の在外公館などに出生後3か月以内に出生届とともに国籍留保の意思表示をしていなければ、相談者の長男は、出生にさかのぼり日本国籍を喪失していることになります。

ただし、現行国籍法17条は、国籍法12条により日本国籍を失った者が18歳未満である場合には、日本に住所を有するときには、法務大臣への届出により日本国籍の取得を認めています。

そのため、相談者が日本国籍を取得できた場合に、相談者の長男が18歳になるまでに相談者とともに日本に住むようになれば、日本国籍の再取得ができます。