家事事件

法律相談

私は日本人女性ですが、エジプト人男性と結婚しました。エジプトの法律では、エジプト人男性と結婚した後に届出をすると、エジプト国籍を取得できるそうです。その場合、私の日本国籍はどうなりますか。
また、もしエジプト国籍を取得したとき、離婚した後はどうなるのでしょうか。

 

エジプト国籍を取得すれば、あなたは日本国籍を失うことになります。
あなたが、その後エジプト人男性と離婚しても、日本国籍は復活しません。日本国籍を取得するためには帰化をする必要があります。

1国際結婚と国籍

日本の国籍法には、婚姻による国籍の取得及び喪失を認めるような規定はありません。

しかし、日本人が外国人と結婚した場合に、日本人が、外国人の本国の国籍法の規定により、外国人の本国の国籍を取得することがあります。
その場合、日本人の国籍がどうなるかは、外国籍配偶者の本国の国籍法の規定により異なります。

(1)日本人が自己の意思で外国籍配偶者の本国の国籍を取得した場合

国籍法上、日本国民は、自己の志望によって外国の国籍を取得したときは、日本の国籍を失うと規定されています(国籍法11条)。

したがって、日本人が、外国籍配偶者の本国の国籍法の規定に従い、自らの意思で配偶者の本国の国籍を取得した場合、その日本人は当然に日本の国籍を失うことになります。

その場合、当該日本人は、国籍喪失の届出をしなくてはなりません。

国籍喪失の届出は、届出事件の本人、配偶者又は4親等内の親族が、国籍喪失の事実を知った日から原則1か月以内にしなければなりません(戸籍法103条1項)。国籍喪失届により、その日本人の戸籍は除籍されます。

本事例の場合は、日本人女性が届出によりエジプト国籍を取得するので、日本人女性が自己の意思で夫の本国の国籍を取得した場合にあたります。

(2)日本人が外国籍配偶者の本国の国籍を当然取得する場合

外国籍配偶者の本国の国籍法上、日本人が当然に夫の本国の国籍を取得する場合がありますが、この場合は「自己の志望」によって国籍を取得したわけではないので、当然に日本国籍を失うことにはなりません。

その結果、その日本人は、日本国籍と外国籍配偶者の本国の国籍の二重国籍となります。

あまり例はないですが、イランが、婚姻により当然に国籍の取得を認めています。

①法務大臣の催告の規定

国籍法は、18歳になる前に重国籍となった場合は20歳までに、18歳に達した後に重国籍となった場合は重国籍者となったときから2年以内に、いずれかの国籍を選択しなければならないと規定しています。

さらに、日本人が、この期間を超えて選択をなさないと、法務大臣から国籍選択の催告を受け、この催告を受けた後1か月以内に日本国籍を選択しなければ、その期間が経過したときに日本国籍を失うと規定されています(国籍法15条)。

ただし、この催告により日本国籍を失っても、日本の国籍を失ったことを知ったときから1年以内(天災その他その者の責めに帰することができない事由によってその期間内に届け出ることができないときは、届出ができるようになって1か月以内)に法務大臣に届け出ることにより、日本の国籍を再取得することができます(国籍法17条2項)。

②重国籍の解消

日本人が、重国籍を解消し、日本国籍を維持するためには、
①外国籍配偶者の本国の国籍から離脱する方法か、
②日本の国籍を選択し、かつ外国の国籍を放棄する旨の宣言(選択の宣言)をする方法(国籍法14条2項)
をとることができます。

①の方法は、外国籍配偶者の本国の国籍法に従ってなさなければなりません。
そして、外国籍配偶者の本国の国籍を離脱した場合には、1か月以内に、日本において外国国籍喪失届を提出する必要があります(戸籍法106条1項)。

外国国籍喪失届には、喪失の原因及び年月日の記載と、喪失を証すべき書面を添付する必要があります(戸籍法106条2項)。これにより、日本人の戸籍に外国国籍喪失の記載がなされます。

②の方法は、日本において国籍選択届を提出することによって行います。
この国籍選択届には、「国籍選択宣言」欄があり、ここには「日本の国籍を選択し、外国の国籍を放棄します」と記載しなければなりません。

国籍選択届は、市区町村役場又は外国にある日本の大使館・領事館に提出します。

しかし、前記のように、外国籍の離脱は、その国の国籍法に従ってなさなければなりません。

日本国籍の選択宣言をすることにより、国籍法14条1項の国籍選択義務は履行したことになりますが、この選択宣言により外国の国籍を当然に喪失するかについては、当該外国の制度により異なります。

国籍選択届を提出しても、当然に日本人の外国籍は失われないため、日本人が手続をしなければ、事実上、重国籍状態が継続することになります。

そのため、国籍法は、「選択の宣言をした日本国民は、外国の国籍の離脱に努めなければならない」という努力規定を設けています(国籍法16条1項)。特に罰則等は設けられていません。

2離婚した場合

日本人が、外国籍配偶者の本国の国籍を取得し、日本国籍を失ってしまえば、その後、外国籍配偶者と離婚をしたからといって、日本国籍が当然に復活することはありません。

日本人が、日本国籍を取得するためには、日本に住所を置き、帰化をする必要があります(国籍法4条)。
この場合、日本国籍を失った日本人には、帰化の要件が緩和されています(同法8条3号)。

すなわち、①引き続き5年以上日本に住所を有すること、②18歳以上で本国法によって行為能力を有すること、③自己又は生計を一つにする配偶者その他の親族の資産又は技能によって生計を営むことができることといった条件を備えなくても、帰化を許可できると規定されています。

したがって、本事例において、エジプト国籍を選択した日本人女性が、離婚して日本国籍に戻りたいという場合には、帰化の手続をとることになります。

3在留資格

日本国籍を喪失した場合であっても、日本国籍を離脱した日から60日以内であれば、引き続き、在留資格を有することなく、日本に在留することができます(入管法22条の2第1項)。

この期間を超えて、日本に在留する場合は、日本の国籍を離脱した日から30日以内に、在留資格の取得を申請する必要があります(同2項)。

また、日本国籍を喪失し、外国籍配偶者と本国で暮らしていた日本人が、離婚により日本に帰国しようという場合には、日本人の子として出生した者であれば、「日本人の配偶者等」の在留資格で日本に入国することができます(入管法別表第2)。

したがって、本事例において、日本人女性が、エジプト国籍を取得し、エジプトで夫と生活をしていたが、離婚して日本に戻りたいという場合には、「日本人の配偶者等」の在留資格で日本に入国することができます。