労働関係

法律相談

私(外国人)は仕事中に怪我を負いました。労災保険の給付を受けましたが、会社は何の補償もしてくれません。私と会社は、労災給付を受けた場合は会社への賠償請求を認めていない私の母国法で雇用契約を締結したのですが、会社に対して賠償を請求できますか。

 

日本で労働していれば、原則として日本の労働法規が適用されます。したがって、労災保険の給付を受けていても、会社に対し、これを超える部分について損害賠償を請求できます。

1労災法と民法上の損害賠償請求の関係について

労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかったような場合、使用者は補償の義務を負いますが(労基法77条以下)、労災法に基づく労災保険給付がなされた場合、使用者は労基法に基づく補償の責任を免れます(同法84条1項)。

そして、使用者は、労基法の定める労災補償を履行すれば、当該労災事故については、補償額の限度で民法上の損害賠償の責任を免れます(同法84条2項)。

しかし、労基法や労災法で定める労災補償、労災保険給付には精神的損害は含まれていませんし、障害補償や休業補償も一定の基準により給付されるため、労災保険によって損害の全額が補填されるとは限りません。

そこで、実際の損害が補償された金額を上回る場合には、使用者はこの超過部分について民法上の損害賠償責任を負うものとされますので、被災労働者やその遺族等は、使用者に対し、民法上の損害賠償請求訴訟(いわゆる労災民訴)を提起することができます。

このように、日本では労働法規上の補償制度と、民法上の損害賠償制度が併存していますが(併存主義)、併存主義をとらない国も多くあります。

2訴訟の法的構成

債務不履行(民法415条)、不法行為(同法709条)を主張することが考えられます。

なお逸失利益を算定するにあたっては、日本における就労可能期間が問題になる可能性があります【最判平成9・1・28判時1598号78頁】

3併存主義を採用しない国の法制度との関係

労働法規上の補償を受ける場合には、民法上の損害賠償請求を許容しない国や、労働者に対し労働法規上の補償と民法上の損害賠償のいずれかを選択させる方法を採用している国もあります。

しかし、日本においては併存主義が採用されていますので、労働法規上の補償によって補填されない損害については、被災労働者は、使用者に対し、民法上の損害賠償責任を追及できます。日本で働くすべての労働者に対しては、日本の労働法規が適用されるのが原則ですから、仮に、労働者の出身国では併存主義が採用されていなかったとしても、日本で就労中に労働災害により損害を受ければ、労災補償のほか、民法上の損害賠償も請求することができます。

使用者が外国籍で、その国が併存主義を採用していない場合であっても、日本で事業を行う使用者に対しては、日本の労働法規が適用されるため、被災労働者は民法上の損害賠償責任を追及できると考えられます。

他方、外国に本来の就業場所があり、一時的に日本に来て業務を行っているような場合は、国籍にかかわらず、就業の実態から考えて「日本において就労しているとはいえない」と判断される可能性があります。その場合は就業場所の法制度に従うことになると考えられます。