労働関係

法律相談

私は、仕事中に機械の故障が原因で怪我を負いました。入院中なので働くことができず、家族は貯金を崩して生活しています。実は、私は在留資格がなく、いわゆる不法就労なのですが、何か援助を受けることはできませんか。

 

国籍や在留資格の有無にかかわらず、労働災害により傷病にかかれば、労災保険の給付を受けることができます。

1労災保険はすべての労働者に適用される

労働者災害補償(労災)保険は、政府が管掌する社会保険制度により、労働災害に対し保険給付という形で補償を行うものです。

国の直営事業や官公署の事業のほか、一部の個人経営の農林水産業(暫定任意適用事業)を除いては、労働者を使用するすべての事業者に加入の義務があります。

労災法の「労働者」は、労基法9条の労働者と一致した概念であるとされています。国籍及び在留資格の有無を問いませんが(昭和63・1・26基発第50号)、就労が認められていない研修生には原則として適用がありません。

一方、雇用関係の下にある技能実習生には適用があり、暫定任意適用事業であっても、技能実習生を受け入れる場合には労災保険への加入が義務付けられます。

なお、被災労働者が不法就労者であっても、労働基準監督機関は、本人の労働基準関係法令上の権利の救済に努め、原則として入管当局に対し通報は行わないこととされていますが、「不法就労者を放置することが労働基準行政としても問題がある場合」はその例外とされていますので注意が必要です。

2「業務上」の災害であること

労災保険は、労働者が「業務上」の災害により負傷し又は疾病にかかった場合、これが治っても障害が残存した場合や死亡した場合を補償ないし保険給付の対象としています。そこで、給付の請求には当該災害が「業務上」の災害といえるかどうかが問題となります。

まず、業務上の災害とは、業務に起因した災害をいいます。業務に起因した災害とは、行政解釈では、「業務又は業務行為を含めて『労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にあること』に伴う危険が現実化したものと経験上認められること」とされています。業務起因性の有無を判断するにあたっては、災害が事業主の支配・管理下において発生したかどうかという業務遂行性が第一次的な判断基準とされているのです。

3業務上の疾病について

業務上の疾病については、労働基準法施行規則35条、同施行規則別表第1の2で網羅的に定められています。

4給付の内容について

業務災害に関する保険給付には、①療養補償給付、②休業補償給付、③障害補償給付、④遺族補償給付、⑤葬祭料、⑥傷病補償年金、⑦介護補償給付があります(労災法12条の8第1項)。通勤災害の給付内容については、労災法21条が定めています。

5給付の手続について

保険給付は、被災労働者又はその遺族等の請求に基づき、労働基準監督署長が支給又は不支給の決定を行います。この決定に不服があれば、審査請求、再審査請求を行うことができ(行政不服審査法2条、6条)、取消訴訟は、裁決の下された後に行うことができるのが原則です。

6時効について

療養補償給付、休業補償給付、葬祭料、介護補償給付等を受ける権利は2年を経過したとき、障害補償給付、遺族補償給付等を受ける権利は5年を経過したとき時効によって消滅します(労災法42条)。民法(債権関係)の2017年6月改正に伴う労災法の改正により、時効の起算点が客観的起算点であることが明示されることとなり、起算点は「行使することができる時から」と改められますが(2020年4月1日施行)、施行日前に生じた時効の中断事由(同改正法施行後、「時効の完成猶予及び更新」となる)の効力や請求権が生じた場合は、従前のとおりです。時効は、被災労働者が外国に滞在していても進行します。