労働関係

法律相談

「技能実習」の在留資格で、外国人実習生として働いているのですが、手当の一部を帰国時まで預かると会社にいわれて全額受け取れない上に、いくら残業しても手当が増えず、暮らしに困っています。また、仕事中に怪我をした場合などには、どういう手続をとればよいのでしょうか。

 

技能実習生には、労働法規の適用があり、賃金・残業代は通常どおり支払われなければなりません。勤務中の事故については労働災害として雇用主による療養休業補償や労災保険金の支給対象となる可能性があります。

1「技能実習生」とは

外国人技能実習制度は、国際貢献のため、開発途上国等の外国人を日本で一定期間(最長5年間)に限り受け入れ、OJT(現任訓練)を通じて技能を移転する制度です。

しかし、実際には、低賃金労働者として酷使されている実態がありました。

そのため、2009年入管法改正(施行は2010年7月1日)で、「技能実習」の在留資格が創設され、労働者としての地位が認められることになりました。

さらに2017年11月1日、外国人技能実習の適正な実施と技能実習生の保護を図ることを目的として「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」(以下、「技能実習法」という)が施行されました。

技能実習法により、外国人技能実習機構による監理団体や実習実施者に対する監督体制が強化され、監理団体や実習実施者による人権侵害行為に対する罰則規定も設けられました(暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって技能実習を強制する行為については1年以上10

年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金〈技能実習法46条、108条〉。違約金を定める行為〈同法47条1項)、貯蓄金を管理する契約を締結する行為〈同法47条2項>、旅券等を保管する行為(同法48条1項〉、私生活の自由を不当に制限する行為〈同法48条2項〉実習実施者等の法令違反事実を主務大臣に申告したことを理由とする技能実習生に対する不利益取扱<同法49条2項〉については、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金の対象となる。同法111条4号~7号)。

また技能実習生に対しては、外国人技能実習機構に母国語相談窓口が設けられるといった通報申告窓口の整備・充実が図られました(http://www.otit.go.jp/)。

2賃金の未払いについて

技能実習生は、企業と雇用契約を結び、労働法規や最低賃金制も適用されます。

厚生労働省労働基準局長「技能実習生の労働条件の確保について」(平成22・2・8基発0208第2号)では、直接技能実習生に、賃金の全額を毎月1回以上、一定期日に支払わなければならないこととされ、賃金の控除については、法令の定めがある場合や事理明白なものについて法定の労使協定を締結した場合のみ、認められるとされました。

したがって、本事例では、労基法24条により、会社は賃金を全額支払わなければなりませんし、残業代も通常の労働者と全く同様に請求できます。

なお、監理団体が実習技能機関に対し、監理団体名義の銀行口座や監理団体が監理する技能実習生名義の口座に賃金を振り込ませてこれを不当に利得することも、労基法6条が禁止する中間搾取に該当します。

また技能実習法の罰則の対象となります。

3技能実習生が勤務中に怪我などをした場合

技能実習生には、労働法規の適用がありますので、労災申請を行い、労災保険金を受け取るしくみになっています。

仕事が原因で、病気や怪我をした場合、労災保険給付手続の申請を管轄の労働基準監督署に対して行うことができます。

通常は、事業主が労働基準監督署に請求書の提出を代行しますが、まれに、事業主が労災を隠すために、これを認めようとしない場合もあります。

この場合は、被災労働者が労働基準監督署で請求手続をすることができるので、直接、労働基準監督署に相談ができます。

4在留資格との関係

入国1年目の在留資格は「技能実習1号イ・ロ」となり、講習(原則2か月。雇用関係なし)及び実習(実習実施者で実施。雇用関係あり)を行います。

所定の技能評価試験(技能検定基礎級相当)の学科試験及び実技試験に合格した者については、入国2~3年目は「技能実習2号イ、ロ」の在留資格への変更又は取得の上、技能実習を継続することができます。

さらに所定の技能評価試験(技能検定3級相当)の実技試験に合格した者については4~5年目は「技能実習3号イ、ロ」の在留資格に変更又は取得の上、技能実習を継続することができます。

在留資格との関係で注意すべきなのは、3か月以上技能実習としての活動ができなくなると、在留資格が取り消されるおそれがあることです。

そのため、活動ができない「正当な理由」、つまり病気や怪我で一時的に働けないだけであり、治癒すれば活動可能となるなどの事情があることを示して、在留資格が維持できるようにする必要があります。

このような事情もあるため、労災申請や保険金の請求は、できるだけ早く行うことが必要ですが、それらの手続に時間が必要な場合、たとえ「技能実習」の在留資格がなくなったとしても、短期滞在か特定活動の在留資格などを得て、さらに滞在できることもあります。

そのため、労災を隠そうとして会社が即刻帰国することを要求しても、在留資格が直ちに失われるわけではないため、すぐに帰国する必要はありません。

なお、実習実施者において、技能実習の継続が困難になった場合で、かつ実習生が技能実習の継続を希望する場合には、実習先の変更が可能です。

また、実習先の変更にあたり、実習実施困難時に監理団体及び実習実施者が新たな実習先を確保する努力を尽くしても、なお確保できない場合には、外国人技能実習機構から新たな受入先となり得る監理団体の情報を提供するなどの支援を受けることができます。

5技能実習についての相談先

いずれにせよ、本人だけでこれらの手続を行うことは困難ですので、職場の労働組合や、法律家に相談することが必要になると考えられます。
具体的には、「外国人技能実習生権利ネットワーク」という支援団体があり、法律家の団体としては「外国人技能実習生問題弁護士連絡会」「外国人労働者弁護団」という団体があります。

また、東京弁護士会の公設事務所である東京パブリック法律事務所には外国人・国際部門があります。