家事事件

法律相談

数年前に日本人と結婚して子どもをもうけましたが、現在離婚に向けて話し合い中です。外国人である私は、子ども(日本国籍)の親権者となることができるでしょうか。
また、その場合、私の在留資格に何らかの影響があるでしょうか。

親権者となることができるかどうかについては、親権者の指定に関する準拠法に拠ります。親権者となることができる場合には、離婚後「日本人の配偶者等」の在留資格から、「定住者」への在留資格変更が許可される可能性があります。

1 親権者指定に関する準拠法

親権者の指定に関する準拠法は、親子間の法律関係の準拠法について規定した法適用通則法32条によって決定するというのが裁判例です(【東京地判平成2・11・28判時1384号71頁】)。

同法32条は、「親子間の法律関係は、子の本国法が父又は母の本国法(父母の一方が死亡し、又は知れない場合にあっては、他の一方の本国法)と同一である場合には子の本国法により、その他の場合には子の常居所地法による」と規定しているので、まずは子と父母のそれぞれの本国法を特定します。

「本国法」については、同法38条が規定しています。

当事者が重国籍である場合には常居所がある国の法、常居所地がないときは最密接関係がある国の法を本国法としますが、日本国籍がある場合には、日本法が本国法となります。

また地域によって異なる法制を有している国の法となる場合には、その国の規則に従い指定される法、そのような規則がない場合には、最密接関係地域の法が本国法となります。

それぞれの本国法を確定した上で、子の本国法が父親又は母親の本国法と同一であれば、その国の法律が準拠法となり、その国の実体法に従って親権者の指定がなされることになります。

同一本国法がない場合には、子の常居所地法が準拠法となります。本事例では、子の本国法が日本法であり、父親の本国法も日本法なので、日本法が準拠法となります。

2 離婚後の在留資格

外国人が日本人と結婚すると、その外国人は「日本人の配偶者等」としての在留資格を得ることができます(入管法別表第2)。

では、離婚した場合、在留資格はどうなるのでしょうか。

離婚をすると、「日本人の配偶者等」という在留資格の基礎となっていた身分がなくなることになりますが、離婚後、直ちに在留資格がなくなるというわけではありません。

しかしながら、継続して6か月以上、配偶者の身分を有する者として活動を行わない場合には、法務大臣は、当該在留資格を取り消すことができると規定されています(入管法22条の4第1項7号)。

離婚すると「日本人の配偶者等」は6か月後に必ず取り消されるという意味ではありませんが、留意する必要があります。

3 730通達について

離婚後の在留資格に関しては、平成8・7・30法務省入国管理局長通達(通称「730通達」といわれている)という通達に従った運用がなされています。

この730通達によれば、
①未成年かつ未婚の日本人の実子の親権者であり、
②現実にその子を相当期間監護養育している
場合には、「日本人の配偶者等」の在留資格から「定住者」の在留資格への変更を許可してよいとされています。

①の要件にある「日本人の実子」とは、子が生まれた時点において、父親か母親が日本国籍を有しているものをいいます。

子が日本国籍を有しているかどうかは問題になりません。

ただし、子が生まれた時点において、両親が婚姻関係にない場合には、日本人父から認知されていることが必要となります。

②の要件にある「監護養育」とは、子を監督して保護することをいいます。民法820条にいう「親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う」と同じ意味です。

外国人の親に経済力がなく、生活保護等を受けている場合であっても、実際に監護養育している事実があればよいとされています。

この730通達の要件を満たしている場合には、日本人配偶者と離婚した外国人については、「定住者」への在留資格の変更を認めてよいという扱いになっています。

これは、日本人の実子としての身分関係を有する未成年者が、日本で安定した生活を送ることができるように、という考えに基づくものです。

したがって、日本人と結婚した後に子どもをもうけている本事例において、外国人親に親権が認められ、実際に監護養育する場合には、730通達によって、「定住者」への在留資格の変更が許可される可能性が高いということになります。