家事事件

法律相談

私(X国籍)は5年前、日本人男性と結婚しました。夫とは結婚前にX国で1回会っただけですが、運命だと思って結婚して来日し、「日本人の配偶者等」の在留資格で在留しています。夫と同居したのは、来日直後の最初の1か月だけでしたが、その後も私の在留期間の更新には夫も協力をしてくれていました。ところが、突然、夫から婚姻無効確認調停を申し立てられました。この後、私はどうなるでしょうか。

 

調停での夫との話合いで合意が成立しなかった場合には、夫は婚姻無効確認の訴えを提起することができます。裁判により婚姻無効判決が確定した場合には、「日本人の配偶者等」の在留資格は取り消される可能性が高いです。

1婚姻の無効の確認

婚姻が有効であるかどうかは、婚姻の実質的成立要件の問題なので、各当事者の本国法によります(法適用通則法24条1項)。本事例では、相談者についてはX法が、夫については日本法が適用されますが、一方の本国法で婚姻が無効とされる場合には、婚姻は無効とされます。

ここでは、夫の本国法である日本法での婚姻の成立について検討します。

日本法では、婚姻には、婚姻意思が必要とされます。そのため、婚姻届により、法律上形式的には婚姻関係が成立していたとしても、人違いなどの理由によって、真の婚姻意思に基づくものではない場合には、婚姻は無効とされます(民法742条柱書及び1号)。

調停で、当事者双方が婚姻意思がなかったことを認めている場合には、合意に相当する審判がされます(家事事件手続法277条)。

今回のように、一方当事者が婚姻の意思があったと主張する場合には、婚姻無効についての合意が成立せず、調停は不成立となり、終了します。

夫が引き続き婚姻の無効を求める場合には、婚姻無効確認の訴え(人事訴訟法2条1号、4条1項)を提起することができます。

判例では、「婚姻の届出自体について当事者間に意思の合意があっても、それが、単に他の目的を達するための便法として、仮託されたものにすぎないものであって、前述のように真に夫婦関係の設定を欲する効果意思がなかった場合には、婚姻はその効力を生じない」としており【最判昭和44・10・31民集23巻10号1894頁】、いわゆる「偽装結婚」については、婚姻は無効であると判断されます。

もし、相談者が在留資格を得ることを目的に婚姻をしていたとすれば、婚姻を無効とする判決が出ることになります。

婚姻が無効となると、当初から婚姻関係がなかったことになります。

この点は、離婚や婚姻取消では、その時までは婚姻関係が存続していたと扱われる(民法743条、748条1項)ことと異なります。

もし、この夫婦に子がいた場合、子は嫡出子として、日本国籍を取得しています。

しかし、婚姻が無効となれば、子の嫡出性は否定され、子の日本国籍は出生時にさかのぼってなくなるので、子の在留資格を取得する必要が生じます。

もし、子の血縁上の父が、相談者の夫ではなく、別の日本人男性であれば、子の父に対し、認知を求め、父子関係が成立した後に、日本国籍を取得できる場合もあります。

なお、婚姻無効の審判又は判決が確定してから1か月以内に判決等の謄本を添付し、戸籍の訂正を申請しなければなりません(戸籍法116条)。

当事者が申請をしない場合でも、職権で訂正されることもよくあるようです(戸籍法24条)。

2刑事手続の可能性

本事例が在留資格の取得を目的とした偽装結婚であったと判断された場合には、公正証書原本不実記載罪、もしくは電磁的公正証書原本不実記録罪・同行使供用罪(刑法157条、158条)で起訴され、処罰される可能性もあります。

3在留資格の問題

在留資格取得を目的とした偽装結婚のために、婚姻が無効とされた場合には、仮に刑事処分を受けなかったとしても、相談者の在留資格への影響は免れません。

在留資格の取得や在留期間の更新の際に、日本人の婚姻の意思や婚姻の実態に関し、虚偽の事実を申告していたということになることから、偽りその他不正の手段で在留資格を得ていたことになり、在留資格取消事由(入管法22条の4第1項2号)に該当します。

このため、相談者の「日本人の配偶者等」の在留資格が取消される可能性が非常に高いです。