家事事件

法律相談

私は、日本人の夫との離婚が決まり、親権は夫とすることになりました。私には月に二度の宿泊を伴う面会交流が認められています。ただ、在留資格がなければ、実際には子どもに会うことができなくなってしまいます。離婚後、私の在留資格はどうなるのでしょうか。

 

親権を有しない場合であっても、「定住者」への在留資格変更が認められる場合があります。

1離婚後の在留資格

離婚後は、「日本人の配偶者等」の在留資格該当性がなくなりますから、離婚後あらためて日本人と婚姻しない限り、在留期間更新はできません。

730通達について

離婚後の在留資格に関しては、平成8・7・30法務省入国管理局長通達(通称「730通達」といわれている)という通達に従った運用がなされています。

この730通達によれば、
①未成年かつ未婚の日本人の実子の親権者であり、
②現実にその子を相当期間監護養育している
場合には、「日本人の配偶者等」の在留資格から「定住者」の在留資格への変更を許可してよいとされています。

①の要件にある「日本人の実子」とは、子が生まれた時点において、父親か母親が日本国籍を有しているものをいいます。

子が日本国籍を有しているかどうかは問題になりません。

ただし、子が生まれた時点において、両親が婚姻関係にない場合には、日本人父から認知されていることが必要となります。

②の要件にある「監護養育」とは、子を監督して保護することをいいます。民法820条にいう「親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う」と同じ意味です。

外国人の親に経済力がなく、生活保護等を受けている場合であっても、実際に監護養育している事実があればよいとされています。

この730通達の要件を満たしている場合には、日本人配偶者と離婚した外国人については、「定住者」への在留資格の変更を認めてよいという扱いになっています。

これは、日本人の実子としての身分関係を有する未成年者が、日本で安定した生活を送ることができるように、という考えに基づくものです。

730通達によれば、「日本人の実子」の親権を有し、現に監護・養育している外国人であれば、「定住者」への変更を許可するとされているところ、本事例の相談者のように、親権を有していなければ、730通達の射程外となりますから、原則として同通達に基づく「定住者」への変更申請も認められません。

2「定住者」への在留資格変更の可能性

ただし、実際の運用としては、直接的には730通達の射程外であっても、それまでの在留期間が長期に渡り、生活が安定していて、子どもとの面会交流が認められているというような場合には、それらの事情を総合的に考慮して、「定住者」への在留資格の変更が認められる場合があります。

外国人女性に親権はあるものの監護養育権がなく、730通達の射程外といえる事案において、離婚後の「定住者」への在留資格変更の不許可処分が争われた裁判例として、【東京地判平成14・4・26判例集未登載】があります。

事案は、日本人男性と婚姻して2人の子どもをもうけ、適法に日本に在留していた女性が、監護養育権者を父親、親権者を母親とする合意のもと離婚し、離婚後に、「定住者」への変更許可申請を行ったところ、これが不許可とされたため、不許可処分取消訴訟を提起したというものです。

この事案において、東京地裁は、

①監護・養育権者は父親であるが、母親は親権者であること、

②母親は子どもたちに愛情を持っており、子どもたちも母親を必要としていること、

③子どもたちは日本で生まれ育っていて、離婚時には小学校低学年及び未就学児童であること、

④母親は自ら監護養育することを望んでいたが、子どもたちの将来を考えて経済力のある父親を監護・養育権者としたものであること、

⑤母親は面会交流を欠かさずに行っていること、

⑥母親は、父親が監護・養育を放棄するようなことがあれば、直ちに子どもたちを引き取るつもりであること、

⑦父親による監護養育の不足部分を母親との面会交流で補う必要があること、

などの具体的事情を認定した上で、730通達の趣旨が、日本人の実子が安定した生活を営めるようにすることにあり、幼い子どもとその親との関係は、人道上、十分な配慮を要するものであることを指摘し、本件は、実子の健全な生育にとっては、外国人親との愛情に基づく交流が必要不可欠であるという点において、730通が定める事由と同視すべきものであると述べ、当該母親に対しては、日本への居住を認めるに足りる特別な理由を肯定するのが相当であると判示しました。

この裁判例によれば、730通達の射程外であっても、その趣旨に鑑みて、730通達が想定している状況と同視できるような事情がある場合には、「定住者」への在留資格変更を認めるべきであるという判断がなされることもあるということになります。

なお、「日本人の配偶者等」から「定住者」への在留資格の変更が認められる場合として、婚姻期間に関しては、実質的な婚姻期間が3年程度あることが必要だといわれていますが(2009・7・7参議院法務委員会答弁参照)、明確な基準があるわけではありません。

それまでの生活状況や、子どもとのかかわり方(外国人親との面会交流等のかかわりが、子どもにとって重要であるという具体的な事情など)、子どもの年齢、本人の経済的状況、日本における身元保証人に関する資料などプラスに働く資料を積極的に提出して、「定住者」への在留資格の変更申請をすることが重要です。