法律相談1

外国人の収容・仮放免と退去強制を争う方法についてご説明します。

法律相談

10数年前に偽造旅券で来日した外国人夫婦です。日本で生まれた娘が中学生になったこともあり、出入国在留管理局に出頭して、在留特別許可を求めましたが認められず、家族そろって退去強制令書の発付を受け、夫が収容されました。裁判で争うしかないのでしょうか。また、夫はずっと出入国在留管理局に収容されることになるのでしょうか。

 

最終的には裁判で争うことになりますが、その前に収容を争う機会はあり、場合によっては、仮の措置として収容を解かれることもあります。

1収容手続について

(1)収容令書に基づく収容

入国警備官は、外国人が退去強制事由に該当すると疑うに足りる相当の理由があるとき、主任審査官の発付する収容令書により、当該外国人を収容することができます(入管法39条)。

同条に基づく収容について、出入国在留管理局は、退去強制手続の対象者すべてを収容するとの建前をとっています(全件収容主義)。

出入国在留管理局はこのような建前に基づき、非正規滞在の外国人が自ら出頭するケースであっても、当該外国人を一度形式的に収容し、保証金の納付を条件として、即時に仮放免(同法54条)をするという対応をとっています。

この全件収容主義に対しては、あえて収容しなくても退去強制手続の目的を阻害しないことや、収容によって心身に重大な障害がもたらされることに対する考慮がなく、一律収容するところを問題視されています。

なお、収容令書に基づく原則30日間ですが、主任審査官は、やむを得ない事由がある場合には、さらに30日延長し、合計60日間収容することができます(同法41条1項)。

したがって、最大で60日以内に退去強制令書が出る可能性がありますので、在留特別許可を検討する場合には、早急な対応を要します。

(2)退去強制令書に基づく収容

他方、退去強制手続を経て、最終的に退去強制令書が発付された場合、入国警備官は、退去強制令書の効力により、当該外国人を送還可能のときまで入国者収容所、収容場などに収容することができます(入管法52条5項)。

本事例では、既に退去強制令書が出されているので、父親は退去強制令書に基づく収容を受けていることになります。

退去強制令書に基づく収容は、法律上、特に期限が定められていないため、送還されるか、仮放免許可又は執行停止の決定を受けるまでは収容が続くことになります。

司法審査もなく、行政庁の判断のみで、無期限の収容がなされることは、適正手続や令状主義の観点から問題であるといわざるを得ません。

なお、出入国在留管理局は、
平成22年12月9日法務省管警第288号法務省入国管理局通達・平成22年12月9日法務省警第289号法務省入国管理局警備課長通知、及び平成29年7月24日法務省管第120号法務省入国管理局警備課長通知に基づき、入管事件、民事事件、家事事件、労災申請事件等の代理人又は代理人となるものと認められる弁護士や、出頭義務の履行に対する協力を表明している弁護士から通知希望申出書の提出があった場合には、送還予定時期のおおむね2か月前に、被退去強制者の送還予定時期を通知する制度を実施しています。

2仮放免

(1)仮放免制度

仮放免とは、収容令書又は退去強制令書により身体を拘束された被収容者について、請求により又は職権で、一時的に収容を停止し、身体の拘束を仮に解く措置のことをいいます(入管法54条)。

これは、被収容者の健康上の理由、出国準備等のために身体の拘束を一度解く必要が生じることもあるため、そのような場合に対応するために設けられた制度です。

これに対し、送還することができないことが明らかになった被退去強制者に対してなされる措置である特別放免(同法52条6項)もありますが、実際には全く機能していません。

仮放免は、収容者本人若しくはその代理人、保佐人、配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹が申請することができます(同法54条1項)。

そこで、本事例では、まずあらためて自ら又は妻が仮放免の申請をし、その必要性を具体的に主張することによって、身体拘束を解除してもらうことを求めます。

この仮放免が行われる場合には、通常、保証金を支払う必要があります(同2項)。

(2)具体的なケース

実際に摘発される前に、自ら違反を申告して在留の希望を述べた場合には、収容令書発付と同時に仮放免によって釈放される場合も多いですが、問題があると判断された場合などは、仮放免が認められないこともあり得ます。

退去強制令書に基づく収容の場合には、1年前後収容された後、10~50万円前後の保証金を納めて、仮放免される例が多くみられます。ただし保証金の工面や保証人探しは容易ではないこともあります。

仮放免期間は1か月とされることが多く、その後は同一条件で更新されることもありますが、期間満了後に再収容となる場合もあります。

例えば、係属中の訴訟対応のために仮放免を受けていた外国人について、当該訴訟が判決確定等により終了すると再収容されることがあります。

3裁判手続

本事例では、夫が収容されるにあたり、地方出入国在留管理局長の裁決(入管法49条3項、69条の2)とそれに基づく主任審査官の退去強制令書の発付処分(同法49条6項)が存在しますので、これらの取消訴訟を提起します(行訴法3条2項)。

この取消訴訟だけでは、退去強制手続は止まりませんので、併せて退去強制令書の執行停止の申立(同法25条)を行い、収容と送還の執行停止を求めていきます。

在留特別許可に関しては、特別審理官が意見書を作成しており、ここには収容者に有利な内容も書かれている可能性があることから、裁判の審理を通じて、出入国在留管理局に対して係る意見書の提出を要求するべきです。

裁判においては、夫婦及びその中学生の子が日本に居住し続けることが必要であることを主張することになります。

具体的には、夫婦の素行の善良性や定着性、本国へ送還された場合の生活維持の困難さ、子が日本で生まれて中学校に通っていることなどを主張・立証していくことが考えられます。

4再審情願

さらに、いわゆる再審情願という方法をとることも検討されるべきです。

これは、法律上の明文はなく、出入国在留管理局の実務上存在するものであり、一度退去強制処分が終了した後に、出入国在留管理局に対して再度の審査を求めるものです。

一度出された退去強制処分後、当該処分が基礎にしていた事情に大きな変更が生じた場合などに、この再審情願が認められる可能性があります。

実際に想定されるケースは、退去強制令書発付後、仮放免中に婚姻が成立した場合や、本国での政治的迫害を理由に在留特別許可を求めていたが、この許可が認められなかった後に、日本人と婚姻するなど新たな事由が生じた場合などがあります。

したがって、本事例でも、これに類するような事実があれば、再審情願で在留資格を得ることが可能となる余地があります。

ただし、再審情願の判断は、同じような事情があれば必ず認められるというものではなく、このような事情があっても在留が認められないケースもたくさんあります。