労働関係

法律相談

私(外国人)は現在、精密機器の工場で部品の組み立ての仕事をしています。先月末、会社から景気が悪いので来月から賃金を切り下げるといわれました。このようなことは許されるのでしょうか。
また、これまで1日しか有給休暇をとっていませんが、もう有給休暇はとれないでしょうか。
そして、1日10時間働かされる日がありましたが、残業代は請求できるのでしょうか。

 

賃金の一方的な切り下げは許されません。また、有給休暇は取得でき、残業代も請求できます。

1前提となる雇用条件の確認

本事例のような相談の場合、ずさんな雇用条件の下で、外国人を就労させている可能性があります。

そのため、まず労働条件がきちんと明示されていたか(労基法15条)、その内容として「労働期間」、「就業場所」、「従事すべき業務の内容」、「始業・終業時間」、「休憩」、「所定労働時間」、「所定休日」、「休日労働や時間外労働」、「賃金」、「退職」等に関する事項が定められていたか(労基規則5条)を確認する必要があります。

2労働条件の変更の際の原則

労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとされ(労働契約法3条1項)、労働条件の変更も、労使の合意に基づいて行われることが原則とされています(同法8条)。

したがって、労働者の同意を得ない労働条件の切り下げは無効です。

この場合、労働者は、従来どおりの労働条件に基づく契約内容の履行を請求できます。

3年次有給休暇

業種、業態にかかわらず、また、正社員、パートタイム労働者などの区分なく、一定の要件を満たした全ての労働者に対して、年次有給休暇を与えなければなりません(労働基準法第39条)。

【年次有給休暇付与日数】

有給休暇の付与日数

4残業代

使用者が労働者を
①1日又は1週の法定労働時間を超えて働かせたとき(時間外労働)、
②法定休日に働かせたとき(休日労働)、
③午後10時から午前5時までの深夜に働かせたとき(深夜労働)には、
政令で定められた割増率で計算した割増賃金を支払わなければなりません。

時間外労働と休日労働の割増率は2割5分以上5割以下の範囲内(1か月につき60時間を超えた場合は5割以上)、深夜労働の割増率は2割5分以上(労基法37条1項・4項)となっています。

他方で、残業代不払いは労基法24条違反であり、刑罰(30万円以下の罰金)をもって禁止されています(同法120条1号)。

そのため、本事例でも、前記の基準に従って残業代を請求できます。請求のためには、残業代算定の裏付けとなるタイムカード等を確保しておくのが有効です。

なお、使用者が労働者に、時間外労働や休日労働を命じる場合には、使用者は原則として時間外労働・休日労働の協定を労働基準監督署に届け出ることが必要です(労基法36条(いわゆる36協定))。

36協定を締結していないのに、時間外労働や休日労働をさせられれば、これも労基法違反であり(32条、35条)、刑罰が科されます(119条1号)。

以上のように、残業代については、厳しい規制が課せられていますから、残業代が不払いの場合、使用者と交渉するか、労働基準監督署に違反を申告し、労働基準監督署から使用者に対して、「指導」あるいは「是正勧告」がなされるよう働きかける方法が考えられます。

これらの働きかけは、前記労基法の規定を踏まえれば、在留資格の有無にかかわらず、可能と考えられます。

ただし、被災労働者が不法就労者であっても、労働基準監督機関は、本人の労働基準関係法令上の救済に努め、原則として入管当局に対し通報を行わないこととされていますが、「不法就労者を放置することが労働基準行政としても問題がある場合」は、その例外とされていますので、留意して対応にあたりましょう。