法律相談
私はA国籍ですが、数年前に日本人の男性と結婚し、子どもも生まれ、現在日本に住んでいます。ところが1年前から関係が悪化して現在別居しています。仮に離婚するとした場合、日本で離婚することはできるでしょうか。
また、私は離婚後も日本で暮らすことを希望しています。在留資格は認められるでしょうか。
日本で離婚することができます。在留資格については、離婚協議中や離婚係争中は何らかの在留資格が認められる可能性が高いと考えられます。これに対し、離婚成立後は一定の条件を満たした場合に、在留資格が認められることになります。
1離婚の準拠法
日本人と結婚した外国人が離婚する場合、まずどの国の法律が適用されるかが問題となります(離婚の準拠法の問題)。
離婚の準拠法を定めている法適用通則法27条ただし書は、「夫婦の一方が日本に常居所を有する日本人であるときは、離婚は、日本法による。」として、日本に住んでいる日本人と外国人の夫婦の場合には日本の法律が適用されるとしています。
したがって、本事例では離婚に関する日本の法律、すなわち日本の民法が適用されることになります。
2離婚の方式・原因
離婚の方法は国によって様々ですが、本事例では日本法が適用されることから、日本の民法によることになります。
本事例の場合、双方が離婚することに合意している場合には、原則として協議離婚によることになりますが、離婚自体や離婚条件につき争いがある場合には、家庭裁判所による調停や離婚判決によることになります。
次に離婚の原因についてですが、本事例ではこれについても日本の民法が適用されるので、夫婦の一方が離婚に同意しないとき(判決離婚の場合)には、離婚原因が必要になってきます(民法770条1項1号~5号)。
ここで特に注意すべき点は、当事者の合意があるとしても、安易に協議離婚を選択しないことです。
夫婦相互の合意によって協議離婚をできる場合であっても、当該離婚の効力が他方の外国人の本国で有効な離婚として認められるかどうかは別問題となるからです。
3協議離婚による場合
(1)協議離婚の手続
協議離婚による場合、離婚届に署名をして市町村長に提出するという方法になります。
添付書類としては、日本における常居所を証明するための住民票の写し、本籍地以外で届出をする場合には、戸籍謄本を提出します(外国人配偶者については、氏名や国籍に変更があった場合を除いて書類は不要)。
近年、日本人配偶者が外国人配偶者に無断で離婚届を役所に提出する、あるいは、外国人配偶者が日本人配偶者の求めに応じ、離婚届と分からないまま署名をしてしまい市町村長に提出されてしまうというケースが生じています。
こうした事態を予防するための制度として、「離婚届不受理申出制度」があります。これは、相手方配偶者から離婚届が役所に提出されてもこれを受理しないよう役所に事前に求めるものです。
本事例でも、日本人配偶者が勝手に離婚届を役所に提出してしまうのではないかと相談者が心配している場合には、離婚届不受理申出書の提出を検討したほうがよいかもしれません。
万一、日本人配偶者が外国人配偶者に無断で離婚届を提出して受理されてしまった場合には、勝手に出された離婚届であることを理由に、協議離婚無効確認調停や訴訟を提起することができます。
(2)協議離婚の国際的効力
夫婦相互の合意によって協議離婚をした場合であっても、当該離婚が他方の外国人の本国でも有効な離婚があったと認められるかどうかは別問題です。
協議による離婚の制度を認めていない国では、たとえ日本において協議離婚が有効に成立した場合でも、当該外国においては有効な離婚があったとは認められないとされる場合があります。
したがって、日本での協議離婚が当該外国で有効な離婚と認められない懸念がある場合、たとえ当事者が離婚に合意している場合であっても、裁判所の関与がある調停による離婚を選択するとよいでしょう。
調停では、「本調停は、日本国家家事事件手続法第268条第1項により確定判決と同一の効力を有する。」という条項を入れておくことが多いです。
また、場合によっては、調停離婚も有効な離婚として認められない懸念がある国もあるため、その場合には、調停を申し立てた上で、審判(調停に代わる審判(家事事件手続法284条1項))を求めたり、離婚判決を得るべく訴訟を提起したりすることになります。
4離婚自体や離婚条件につき争いがある場合
離婚自体や離婚条件につき争いがある場合には、家庭裁判所による調停や離婚判決によることになるのですが、日本の民法では、原則として調停前置主義を採用しているため、まずは家庭裁判所に調停の申立てをすることになります。
ただし、客観的に調停が不能な状態であると認められる場合には、例外的に調停の前置が不要となります。
離婚調停の管轄は、原則として、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所になります。
なお、その前提として、日本の裁判所に国際裁判管轄が認められるかという問題も生じますが、相手方が日本に住所を有する場合には、問題なく日本に国際裁判管轄が認められます。
調停や離婚判決手続の場合、日本人夫婦の場合に必要な書類のほか、外国人当事者の住民票、必要に応じて旅券(パスポート)の写しなどが必要となってきます(本事例の場合)。
調停での話し合いがまとまらない場合には、次に離婚訴訟を提起することになります。
その後、裁判において離婚を認める判決が確定すれば、離婚が認められることになります。
5在留資格について
(1)離婚前・離婚係争中の在留資格
日本の入管法上、外国人が日本に在留するためには何らかの在留資格が必要になります。
この点、永住者や技術・人文知識・国際業務等の日本における業務内容に着目した在留資格を有する方の場合には、離婚の問題が生じたとしても、在留資格に影響することはありません。
問題となるのは、「日本人の配偶者等」あるいは「永住者の配偶者等」の在留資格の方の場合です。
日本人配偶者と結婚した外国人の場合、「日本人の配偶者等」の資格により、1年から5年の期間、日本に在留することが認められているのが一般的で、期間満了までに更新を申請すれば、原則として在留期間の更新が認められます。
そして、在留期間中に別居期間が6か月を経過した場合であっても、
①配偶者からの暴力(DV)を理由に一時的に避難又は保護を必要としている場合、
②離婚調停又は離婚訴訟中の場合等には、
入管法22条の4第1項7号にいう「正当な理由」があるとされ、「日本人の配偶者等」の在留資格の取消しは行わないとしています(平成24・7法務省入国管理局発表)。
さらに、現在の実務上、離婚係争中は、少なくとも離婚について協議をしていた調停・裁判をしていたりするなど、何らかの活動をしている間は、日本人配偶者の協力がなくても、「日本人の配偶者等」の資格の在留期間の更新又は「特定活動」等の何らかの在留資格を認めています。
2012年に日本人配偶者等」の在留期間6月が新設されて以降は、「日本人配偶者等」の6月の更新を認めるケースが多いようですが、事案によっては1年の更新を認めるケースもあるようです。
更新の回数については、個々の事案に応じて複数回の更新が認められることもあります。
なお、「入国・在留審査要領」では、「日本人配偶者等」の在留期間6月を認めるケースとして、
①離婚調停又は離婚訴訟が行われているもの(夫婦双方が婚姻継続の意思を有しておらず、今後、配偶者としての活動が見込まれない場合を除く)、
②夫婦の一方が離婚の意思を明確にしているものなどを具体的事由として挙げています。
下級審裁判例では、夫婦が別居中の場合につき、法務大臣による「日本人の配偶者等」としての在留期間更新を認めなかった処分を取り消した判決が複数出されています【東京地判平成6・4・28判時1501号90頁等】。
また、日本人配偶者と別居中の外国人について、「日本人の配偶者等」から「短期滞在」への資格変更許可がされた後の在留期間の更新不許可処分について、当該資格変更の経緯を考慮していない点で違法とした判例も出ています【最判平成8・7・2判時1578号51頁】
別居中の場合の「日本人の配偶者等」の在留資格該当性について、判例は、
①日本人との間に婚姻関係が法律上存続している外国人であっても、
②その婚姻関係が社会生活上の実質的基礎を失っている場合には、
その者の活動は日本人の配偶者の身分を有する者としての活動に該当することはできないとしています【最判平成14・10・17民集56巻8号1823頁】。
しかしながら、上記判例を前提としつつ、現在の出入国在留管理局の実務は、別居の事実のみをもって在留資格更新を不許可とするわけではなく、別居の経緯期間、関係修復の意思や可能性、生活費の支給の有無等を総合して判断するとしています。
したがって、本事例相談者の在留資格が「日本人の配偶者等」である場合、在留期間の更新申請や、「定住者」あるいは「特定活動」などへの在留資格の変更申請を行えば、協議の間や離婚係争中は何らかの在留資格が認められるでしょう。
ただし、出入国在留管理局は、同居実態がない場合には、在留期間の更新をなかなか認めませんので、更新を認めさせるには粘り強い交渉が必要でしょう。
(2)離婚成立後の在留資格
前記のとおり、永住者や技術・人文知識・国際業務等の日本における業務内容に着目した在留資格を有する方の場合には、離婚が成立したとしても、在留資格に影響することはありません。
これに対し、「日本人の配偶者等」あるいは「永住者の配偶者等」の在留資格を有する方が日本人配偶者との離婚が有効に成立した場合、まず、離婚成立時から14日内に法務大臣(具体的には地方出入国在留管理局)にその旨届け出なければなりません(入管法19条の16第3号)。
そして、離婚時から6か月が経過した場合、「正当な理由」がない限り、在留資格の取消し対象となります(入管法22条の4第1項7号)。
そのため、他の資格への変更が認められない限り、現在残っている在留期間を超えて在留することはできないことになります。
他の在留資格への変更が認められる例としては、
①婚姻期間や日本での滞在期間が長期にわたる場合(「永住者」「定住者」の資格)、
②いわゆる日系人である場合(「定住者」の資格)、
③日本人の子の親権者や監護者になった場合(「定住者」の資格)、
④入管法別表第1の2の資格(「教育」「技術・人文知識・国際業務」等の在留資格)に該当する活動をしている場合等
が挙げられます。
「定住者」への変更が認められる基準としては、配偶者として日本で同居してから3年間(死別の場合は1年)の経過及び将来の生活状況・安定性が判断基準となります。
本事例でも、①〜④のいずれかにあてはまる場合には、他の在留資格への変更が認められ、離婚後も在留資格を引き続き有する可能性が高いといえます。
なお、法務省出入国在留管理局は、『「日本人の配偶者等」又は「永住者の配偶者等」から「定住者」への在留資格変更許可が認められた事例及び認められなかった事例について』と題する資料を公開しており、具体的事例が挙げられていますので、参考にしてください。