家事事件

法律相談

私(日本人)は、A国籍の夫から離婚調停を申し立てられました。離婚自体や子ども(日本とA国の二重国籍)の親権者を私にすることでほぼ合意できそうです。私としては、養育費、財産分与、慰謝料についても話し合いたいのですが、どのようにすればよいのでしょうか。また、夫は、子どもとの面会交流を希望しています。

 

養育費、財産分与、慰謝料、面会交流についても、離婚調停の手続内で話し合うことができます。その場合、養育費に関する準拠法は、扶養義務の準拠法に関する法律によって定まり、財産分与に関する準拠法は、離婚の準拠法に従い、慰謝料に関する準拠法は、離婚の準拠法又は不法行為の準拠法に従います。面会交流に関する準拠法は、親権者の決定についての準拠法と同じです。

1養育費に関する準拠法

養育費に関する準拠法は、扶養義務の準拠法に関する法律2条により定まります。
すなわち、
①扶養権利者の常居所地法(同条1項本文)、
②上記常居所地法では扶養を受けることができないときは、当事者の共通本国法(1項ただし書)、
③上記によっては扶養を受けることができないときは、日本法(2項)によります。

なお、実務上は、扶養義務者が離婚後に外国に帰国する場合には、養育費の一括払いも検討すべきこと、扶養権利者が離婚後に日本よりも物価の低い外国で生活することが予定されている場合には、日本の裁判所の通常の基準よりも養育費の額が低く算定され得ることを考慮しておく必要があります。

2財産分与請求に関する準拠法

離婚に伴う財産分与請求の準拠法は、財産分与が離婚の財産的効果であることから、離婚の準拠法によるべきと解されています。

もっとも、準拠法となるべき外国法が財産分与請求を認めないか、又は低額の財産的給付しか認めていない場合には、公序条項(法適用通則法42条)の適用が問題となります。

また、財産分与にあたっては、一般に、税金の負担を考慮する必要がありますが、特に、財産分与の対象として、外国にある不動産の譲渡が含まれる場合には、登記等の手続方法についても予め調査しておく必要があります。

なお、離婚後の扶養の問題は、離婚について適用された法によって定まります(扶養義務の準拠法に関する法律4条1項)。

3慰謝料請求に関する準拠法

慰謝料請求の準拠法は、離婚に至るまでの個々の行為を原因とする慰謝料請求に関しては、一般不法行為の問題として、不法行為の準拠法(法適用通則法17条)により、離婚そのものを原因とする慰謝料請求に関しては、その実体がいわゆる離婚給付の一端を担うものとして離婚の準拠法(同法27条本文、25条)によるとするのが判例・多数説です【神戸地判平成6・2・22判夕851号282頁】。

もっとも、実務上は、離婚に至るまでの個々の行為を原因とする慰謝料請求及び離婚そのものを原因とする慰謝料請求において、両者の管轄が異なる場合の不都合性の回避や相手方配偶者保護の見地から、両者を一括し、離婚そのものを原因とする慰謝料請求として請求することもよく行われています。

離婚に至らしめた原因行為に基づく慰謝料請求も夫婦の一方から他方に対して離婚時に請求されるものである限り、離婚そのものに基づく慰謝料請求と不可分の関係にあるといえますので、両者を一括して請求し、ともに離婚の準拠法によるべきとする上記実務上の取扱いは妥当なものと考えられます。

4面会交流に関する準拠法

面会交流に関する準拠法は、面会交流が子の監護に関する処分であり、親子間の法律関係の問題であることから、法適用通則法32条により定まります。

すなわち、子の本国法が父又は母の本国法と同一である場合には子の本国法、その他の場合には子の常居所地法となります。

本事例では、子は父母のいずれとも同一の国籍を持っていますが、子の本国法が日本法なので(法適用通則法38条1項ただし書)、民法が適用されます。

また、日本は児童権利条約の締約国です。

面会交流については、父母双方から、面会交流の頻度や時間をはじめ、様々な条件が出されますが、児童権利条約9条3項において、「締約国は、児童の最善の利益に反する場合を除くほか、父母の一方又は双方から分離されている児童が定期的に父母のいずれとも人的な関係及び直接の接触を維持する権利を尊重する」と定めているように、面会交流の条件を定めるにあたっては、子の利益を最も優先して考慮しなければなりません(民法766条1項参照)。

渉外事案においては、面会交流の頻度や時間だけではなく、面会交流時の子の旅券(パスポート)の扱い、外国での面会交流の実施、渡航費や宿泊費の負担、面会交流時の使用言語、子と非監護親が国境を越えて生活をしている場合のインターネットを利用した間接交流などが問題となることがあるほか、文化の差異についての理解や配慮も必要となります。