労働関係

法律相談

私は日系ブラジル人です。自動車会社の下請会社に雇用されているのですが、実際には元請の自動車会社の工場の生産ラインで、その工場の主任等の指示に従い、工場の他の社員とともに長年働いています。私は請負会社に雇用されている形になっているので、周りの社員と全く同じ仕事をしていても、私の給料は一向に上がりません。私の待遇を改善してもらうにはどうすればよいのでしょうか。

 

相談者は、おそらく実際には派遣労働者として働いているのですが、契約上は請負の形式で働かされていると考えられます。一定の条件を満たせば、自動車工場に直接雇用することを請求できますので、組合や法律家に相談するべきです。

1偽装請負とは

派遣元が労働者を派遣する場合には、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(以下、「労働者派遣法」という)に従う必要があり、その場合には期間制限があったり、一定の条件を満たした場合に、派遣先に直接雇用義務が発生する可能性があります。

そのような規制を免れるために、派遣先と派遣元が共謀して、実際には労働者を派遣しているのに、派遣元が仕事を請け負った形の契約を結び、派遣元の社員が派遣先の現場で派遣元が請け負った業務を行うという契約形式をとることがあります。

こうすれば、契約としては、派遣元が派遣先から請け負った業務を自分の社員に遂行させる形になるので、労働者派遣法の規制を受けずに労働者を勤務させることができます。

しかし、実際には労働者は業務を請け負ったはずの派遣元から勤務内容について何ら指示を受けておらず、派遣先の指示に従って勤務するのですから、実態は派遣労働なのです。

このようにして、実態は派遣であるにもかかわらず、請負の形をとって、労働者派遣法の規制の潜脱を図るのが、いわゆる「偽装請負」です。

2直接雇用の請求

労働者派遣法によれば、3年を超えて派遣労働者を継続して使用しようとする場合には、直接雇用を希望する労働者に対しては、雇用契約の申込みを行う義務があります(労働者派遣法40条の5)。

したがって、3年を超えて同一の派遣先で勤務している場合には、派遣先に対して直接雇用を請求できます。

3裁判例

偽装請負を行ってきた企業に対しては、多数の裁判が起こされており、【大阪高判平成20・4・25判時2010号141頁】は、偽装請負を行っていた松下プラズマディスプレイ(松下PDP)に対して、偽装請負の形で勤務していた労働者が、松下PDPの雇用する社員であることを確認し、賃金支払を命ずる判決を下しました。

もっとも、この事件は2009年12月18日に最高裁判決が下されており【判夕1316号121頁】、最高裁判所は、被告が偽装請負を行っており、原告が実際には派遣労働者の地位にあったことは認めたものの、原告と被告の間の直接雇用契約を認めた大阪高裁判決を破棄し、この判断が確定しました。したがって、現在のところ、雇用形態が偽装請負であった場合に直ちに直接雇用が認められるとはいえません。

ただし、本判決は、偽装請負を告発した原告に対して、被告が行った配置転換や雇止めといった一連の行為は原告への報復行為にあたるとして、被告に損害賠償を命じました。

このように、本判決は、偽装請負を行っていた被告に対して、それが偽装請負であることを認定し、さらに損害賠償を認めさせて、偽装請負を行っていた企業に一定の社会的責任を認めさせた判決であるといえます。

4労働現場での違法行為についての相談先

このような偽装請負に限らず、派遣労働の現場では、不利な条件で勤務させられていたり、契約終了後に雇用保険などの受けられるべき給付を受けられないでいたりするケースが少なくありません。

特に、外国人の労働者の場合には、言語や労働習慣の相違などから、日本人の場合よりもさらに劣悪な労働条件にさらされている危険性は高いといえます。

いずれにせよ、複雑な契約関係などを本人だけで理解し、問題を解決することは困難であると考えられるため、勤務先に組合があれば、そちらにまず相談してみることです。

また、労働問題に詳しい労働組合や法律家に相談することも解決の端緒になると思われます。