家事事件

法律相談

私(日本人)はA国籍の男性と結婚していますが、夫は数年前に本国に帰国し、以後連絡がとれない状態が続いています。夫とは離婚したいと考えているのですが、どのような手続をとればよいのでしょうか。

 

本事例相談者の住所地を管轄する日本の家庭裁判所に離婚訴訟を提起することになります。なお、平成30年4月18日に人事訴訟法等の一部を改正する法律(平成30年法律第20号)が成立し、国際裁判管轄に関する規律が明文化されました(同年4月25日公布。公布の日から1年6月以内に施行予定)。上記改正により、本事例相談者の住所地を管轄する日本の家庭裁判所に離婚訴訟を提起することができる根拠が明文化されました。

1離婚の準拠法

夫婦の一方が日本に常居所を有する日本人である場合、離婚の準拠法は日本の民法になります。

本事例では、夫が数年前に本国に帰国し、以後連絡がとれない状態が続いていることからして、民法770条1項2号(悪意の遺棄)、3号(3年以上生死不明)、5号(婚姻を継続し難い重大な事由)のいずれかにあたる可能性が高いといえます。

そして、夫が本国に帰国して以後連絡がとれないことから、協議や調停での離婚は困難であり、この場合には、調停を前置する必要はなく(家事事件手続法257条2項ただし書参照)、離婚判決(離婚訴訟)によることとなります。

2離婚裁判の場合の管轄(国際裁判管轄)

本事例では、日本の民法が準拠法になるとしても、相手方である外国人の夫は本国に帰国してしまっています。

このような場合、日本の裁判所において当該離婚事件の審理・裁判が認められるでしょうか。

いわゆる国際裁判管轄が問題になります。

この点、夫婦の一方又は双方が外国籍を有する夫婦間において提起された離婚訴訟事件等の国際裁判管轄に関する規律については、明文の規定がありませんでしたが、平成30年4月18日に人事訴訟法等の一部を改正する法律(平成30年法律第20号。以下、「改正法」という)が成立し、国際裁判管轄に関する規律が明文化されました(同年4月25日公布。)。

この改正により、国際裁判管轄に関する規律について明文化されましたので、改正法施行日以降は、改正法が定めた各要件に該当するかどうかを検討することになります。

(1)改正法施行日前の場合

外国人同士の離婚訴訟に関して、【最大判昭和39・3・25民集18巻3号486頁】は、日本に離婚の国際裁判管轄を認めるためには、訴訟手続上の正義の要求に合致し、跛行婚(一方の国での離婚が他方の国で認められず、他方の国では婚姻したままとなること)の発生を避けることにもなるから、被告の住所が日本にあることを原則とすべきであるが、原告が遺棄された場合、被告が行方不明である場合、その他これに準ずる場合には、被告の住所が日本になければ、原告が日本に住所を有していても、日本に国際裁判管轄が認められないとすることは、日本に住所を有する外国人で、日本の法律によっても離婚の請求権を有すべき者の身分関係に十分な保護を与えないことになり(法適用通則法27条ただし書参照)、国際私法生活における正義公平の理念にもとる結果を招来することになる旨判示しています。

また、ドイツに居住するドイツ人Bが日本に居住する日本人Aに対し既にドイツで離婚訴訟等を提起し、公示送達によりB勝訴が確定したところ、Aも同時期に日本でBを相手取り離婚訴訟等を提起したという事案において、【最判平成8・6・24民集50巻7号1451頁】は、国際的な夫婦の離婚事件の国際裁判管轄の判断においては、当事者間の公平や裁判の適正迅速の理念により条理に従い決定するのが相当であり、被告の住所地の存する国に国際裁判管轄を肯定するのが当然ではあるが、原告が被告の住所地である外国で離婚の訴えを提起することについての法律上、事実上の障害の有無とその程度を考慮し、原告の権利保護に欠けることのないよう留意すべきであるとした上で、ドイツにおいては離婚の効力が生じているが、日本では民訴法118条(旧200条2号)の要件を欠くため、婚姻がいまだ終了していない状況の下では、日本に国際裁判管轄を肯定することが条理にかなうというべきであると判示しています。

上記2つの判例に沿って考えた場合、本事例相談者は日本においてA国籍の男性と結婚をして実際に結婚生活が行われていたことからして、離婚原因の立証手段が日本にあることが多いと考えられるのに対し、相談者がA国で離婚訴訟を提起するという負担を負わせるのは障害が多いと思われること、相手方のA国籍の男性と連絡がとれず行方不明であることからすれば、日本の国際裁判管轄を肯定すること(この場合、国内の管轄は本事例相談者の住所地を管轄する裁判所となる)が正義公平の理念に資するし条理にもかなうといえます。

したがって、本事例では、日本の裁判所において当該離婚事件の審理・裁判が認められると思われます。

よって、本事例相談者は、自己の住所地を管轄する家庭裁判所に離婚訴訟を提起することになります。

(2)改正法施行日以降の場合

改正法では、本事例のように、相手方である外国人の夫は本国に帰国してしまっているケースについて、
①その夫婦の最後の共通の住所が日本国内にあり、かつ、原告の住所が日本国内にあるとき(人事訴訟法3条の2第6号)、
あるいは、
②原告の住所が日本国内にあり、かつ、被告が行方不明であるときなど、日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を図り、又は適正かつ迅速な審理の実現を確保することとなる特別な事情があるとき(人事訴訟法3条の2第7号)には、日本の裁判所において当該離婚事件の審理・裁判が認められるとしています。

そのため、本事例において、当該夫婦の最後の共通の住所が日本国内にある場合はもちろん、最後の共通の住所が日本国内でなかったとしても、前記のとおり、本事例相談者は、日本において、A国籍の男性と結婚をして実際に結婚生活が行われていたことからして、離婚原因の立証手段が日本にあることが多いと考えられるのに対し、相談者にA国で離婚訴訟を提起するという負担を負わせるのは障害が多いと思われることからすれば、結論としては、(1)と同様、日本の裁判所において当該離婚事件の審理・裁判が認められ、本事例相談者は、自己の住所地を管轄する家庭裁判所に離婚訴訟を提起することになります。

(3)国際裁判管轄には要注意

日本に国際裁判管轄がなければ、原則として訴えは却下されてしまうため、管轄がどこの国にあるかは非常に大事な問題となります。

3離婚訴訟の場合の具体的手続

(1)国際裁判管轄を有することの主張・立証手続

改正法施行日前の場合、相談者がA国にいる夫を被告として、日本の裁判所に離婚訴訟を提起した場合、まずは前記した判例に照らし、本事例の国際裁判管轄が日本にあることを主張・立証する必要があります。

具体的には、日本においてA国籍の男性と結婚をして実際に結婚生活が行われていたこと、原告にA国で離婚訴訟を提起するという負担を負わせるのは障害が多いこと、夫の住所が不明であることの主張・立証が必要になります。

なお、たとえ外国にいる夫とSNS等で連絡がとれている場合であっても、住所がわからない場合には、行方不明にあたることもあります。

証拠としては、婚姻から夫が帰国するまでの経緯が書かれた相談者の陳述書、夫の出入国記録や外国人登録原票・住民票の調査結果の報告書、夫に郵便や手紙を送っても届かず電話もつながらないことを証明する資料や手紙のやりとりの状況等を記した陳述書等を提出することが考えられます。

なお、改正法施行日以降の場合には、外国人登録原票や住民票等により当該夫婦の最後の共通の住所が日本国内にあることを主張・立証するか、日本においてA国籍の男性と結婚をして実際に結婚生活が行われていたこと、A国で離婚訴訟を提起するという負担を負わせるのは障害が多いこと、夫の住所が不明であることの主張・立証をすることになります。

(2)外国での送達の際の注意点

次に、外国にいる相手方に対して訴訟を提起する場合、訴訟提起後に、送達する訴状や期日呼出状等は被告住所地のある外国で送達されることになるので、日本国内での送達の場合には生じない特別な問題が生じてきます。

外国における送達という性質上、送達する書面の翻訳が必要になり、また、送達に相当の時間を要することが多くなることから、これらの点には注意をしておく必要があります。

(3)外国での具体的送達方法

まず、訴状や期日呼出状等(送達の回数を少なくするため、通常の訴訟とは異なり、その他甲号証、人証申請書、戸籍謄本等できる限りの書類を一度に送達する運用になっています)の翻訳文を添付する必要があります。なお、後記する公示送達の場合には書類の翻訳は必要ありません。

その際、費用を最小限に抑えるために、翻訳ソフトを使用したり、文書全体の文章量を短くしたりするなどの工夫も考えられます。

次に、外国における送達については、民訴法はわずか1か条を設けているにすぎず(108条)、特に詳細な手続を定めた規定はありません。

そのため、裁判文書等を外国で送達する場合、送達に関する当該外国との合意の有無、取決めの有無、条約の有無を調査・検討する必要があり、それによって送達の嘱託手続の方法が変わってきます。

具体的な送達の嘱託手続は、①民事訴訟手続に関する条約(以下、「民訴条約」という)の締結国の間、②民事又は商事に関する裁判上及び裁判外の文書の外国における送達及び告知に関する条約(以下、「送達条約」という)の締結国の間、③2国間協定を結んだ国の間で、それぞれ異なります(相手国が①②双方の条約の締結国である場合には、送達条約が民訴条約に優先して適用されます。送達条約22条)。

送達について何らの取決めや条約がない場合には、外交上のルートによる個別の応諾によるほかはないことになります。

ある国が民訴条約若しくは送達条約の締結国であるか否かは、ハーグ国際私法会議のホームページで調べることができます。

①②いずれかの条約の加盟国との間では、各条約に従い、外国の管轄官庁に対する嘱託による送達を行うことができます。

また、日本が2国間協定を結んでいる国としてはアメリカ、イギリス、ブラジル、オーストラリアなどがあります。

外国における送達の手続は一般にかなり長い期間を要するのが実情です。一般に、早くて3、4か月、遅いときは1年以上かかる場合もあるといわれています。そのため、裁判所の期日指定もかなり先の日を指定されることが多いです。

(4)送達手続後の対応

訴状や期日呼出状等が被告住所地のある外国で送達され、被告が出頭したり、被告が日本において代理人を選任したりした場合、その後の訴訟の流れは通常の訴訟の場合と同様です。

これに対し、本事例のように外国にいる相手方と連絡がとれない状態になっているような場合には、送達が不能となることが多いと思われます(A国にいることは明らかになっているが、住所が判明しない場合等も含む)ので、公示送達を利用することになります(民訴法107条、110条1項)。

なお、外国における送達が不能である場合だけでなく、外国における送達を嘱託した後6か月を経過しても、送達を証する書面が送付されてこない場合にも公示送達が認められます(同法110条1項3号・4号)。

そして、外国においてなすべき送達について公示送達が実施された場合、文書の掲示を始めた日から6週間が経過することによって送達は効力を生じます(同法112条2項)。

外国における送達に比べて、格段に早いのが特徴ですが、送達の効力が生じる期間が通常の事件の場合(2週間)(同1項)より長くなります。

また、(5)で述べるとおり、公示送達にはデメリットもありますので、注意が必要です。

公示送達がなされた場合であっても、離婚訴訟は人事訴訟であるため、離婚原因の有無を判断すべく原則として本人尋問が行われることになりますが、近時は尋問がなされない場合もあるようです。

(5)判決後の送達手続

その後、審理の結果、裁判所によって離婚原因があると判断される場合には、離婚判決がなされることになります。

ただし、外国における訴状等の送達と同様、当該判決が相手方に送達されるまでには時間がかかります。おおよその目安としては相手方に判決文が届くまでには1年ぐらいかかるといわれています。

これに対し、訴状等が公示送達された場合には、判決の送達も公示送達によってなされることになります(民訴法112条2項)ので、結果としては、外国における送達の場合よりは、早期に判決が送達されることになります。

ただし、公示送達により日本において離婚判決が認められても、当該離婚判決を承認していない国が多いことには注意が必要です。

いずれにしても、通常の離婚訴訟に比べて、判決確定まで相当の時間を要することを理解しておく必要があります。