法律相談
私(日本人)は、A国籍の男性と結婚し、A国で暮らしていましたが、数年前から夫婦関係が悪化したため、子どもを連れて日本に帰国しました。日本で親権の問題を含め、離婚の手続を進めたいと思っているのですが、相手方は、A国で既に離婚と子の引渡しを求める訴訟を起こしたというのです。
①私は、日本で離婚の手続を進めることができるのでしょうか。
②仮に、A国で離婚を認容する判決が出た場合、この判決は日本でも効力があるのでしょうか。
③A国の判決と日本の判決が競合した場合、どちらの判決が優先されるのでしょうか。
相手方がA国で既に離婚訴訟を起こした場合でも、①できる場合があります、②どちらの可能性もあります、③日本の判決が優先します。
1国際訴訟競合
日本で離婚手続を進めるためには、まず国際裁判管轄が認められる必要がありますが、これが認められた場合、国際訴訟競合という問題が生じます。
国際訴訟競合とは、同一の当事者間で、同じ訴訟原因に基づく訴えが複数の国において提起されることをいいます。
係る事態を放置すれば、同一事件について複数の判決が出され、内外判決の抵触が生じるおそれがあります。
そこで、このような事態にいかに対処すべきかが問題となります。
この点、二重起訴の禁止を定める民訴法142条の「裁判所」に、外国裁判所は含まれないことから、日本での反対訴訟が却下されることはないとも考えられます。
しかし、裁判例の中には、内外判決の抵触の問題を考慮して、外国判決が日本で承認される可能性を検討し、先行する外国判決について、本案判決がされて、それが確定に至ることが相当の確実性をもって予測され、かつ、その判決が日本において承認される可能性があるときには、二重起訴の禁止の法理を類推して、日本における後訴を規制する立場(承認予測説。【東京地中間判平成元・5・30判時1348号91頁】)、又は、訴訟の係属する外国と日本のいずれがより、適切な法廷地であるかという観点から日本の管轄権を判断する立場(利益衡量説。【東京地判平成3・1・29判時1390号98頁】)に立つものもありますので、注意する必要があります。
2外国離婚判決の承認
外国離婚判決の承認については、法適用通則法やその他の法律にも明文がありませんが、近時の判例・通説は、外国判決の承認について定めた民訴法118条が全面的に適用されると解しています。
したがって、外国離婚裁判の確定判決は、民訴法118条各号の要件を具備する場合には、自動的に日本においても承認されることになります。
すなわち、外国離婚裁判の確定判決は、
①法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること(1号)、
②敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達(公示送達その他これに類する送達を除く)を受けたこと又はこれを受けなかったが応訴したこと(2号)、
③判決の内容及び訴訟手続が日本における公の秩序又は善良の風俗に反しないこと(3号)、
④相互の保証があること(4号)
の要件を具備する場合に限り、日本においても効力を有することになります。
外国離婚判決の効力を否定したい場合には、日本の裁判所に外国離婚判決の無効確認の訴えを提起し【東京地判昭和63・11・11判時1315号96頁】、当該訴訟において、外国判決が民訴法118条各号の要件を具備していないことを主張していく必要があります。
(1)管轄(1号)
民訴法118条1号の「法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること」とは、日本の国際民訴法の原則から見て、判決国が当該事件について国際裁判管轄(間接管轄)を有することを意味します。
間接管轄の有無は、これを直接的に規定した法令がなく、よるべき条約や明確な国際法上の原則もいまだ確立されていないことから、当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念により、条理によって決定されるのが相当であると考えられています。
具体的には、基本的に日本の民訴法の定める土地管轄に関する基準に準拠しつつ、個々の事案における具体的事情に即して、当該外国判決を日本が承認するのが適当か否かという観点から、条理に照らして判断されます【最判平成10・4・28民集52巻3号853頁】。
(2)送達(2号)
送達の方法は、判決国と日本との間で締結されている司法共助に関する条約の定める方法を遵守することを要します【最判平成10・4・28民集52巻3号853頁】。
なお、翻訳文を添付しない訴状の直接郵便送達によって得られたアメリカの判決は、同号の要件を満たしません【東京地判平成2・3・26金判857号3頁】
(3)公序良俗(3号)
外国判決の内容が公序に反するか否か(実体的公序)を判断するにあたっては、当該外国判決の主文のみならず、それが導かれる基礎となった認定事実をも考慮することができます。
他方、訴訟手続に関する公序(手続的公序)に反する場合としては、裁判機関が中立性を欠く場合、詐欺によって得られた判決、被告の防御権が保障されなかった場合などが考えられます。
(4)相互の保証(4号)
「相互の保証」とは、日本の裁判所がした同種類の判決が、判決国において、民訴法118条各号所定の条件と重要な点で異ならない条件のもとに効力を有するものとされていることをいいます【最判昭和58・6・7民集37巻5号611頁】。
3判決の競合
外国判決の承認時に、既に日本の裁判所の確定判決がある場合に、それと同一当事者間で、同一事実について矛盾抵触する外国判決を承認することは、日本裁判法の秩序に反し、民訴法200条に反すると解されています【大阪地判昭和52・12・22判夕361号127頁】。