法律相談1

法律相談

私はA国の出身ですが、日本で就職し、ローンを組んでマンションも買いました。しかし、失業してローンを払っていくことができません。A国にも不動産があり、借金もあります。どこの国で破産手続をすればよいのでしょうか。

日本に住所・居所あるいは財産があれば、外国人であっても、日本の裁判所で破産手続ができます。A国で申し立てる場合には、A国の破産法によります。

1国内倒産手続の対外的効果と外国倒産手続の対内的効果

本事例では、破産手続だけでなく、再生手続、更生手続、整理手続、特別清算手続など「倒産手続」の対外的効力(日本の裁判所で行った倒産手続の国外における効力)と、対内的効力(外国の裁判所で行った倒産手続の日本国内における効力)が問題となります。

旧破産法3条1項は、「日本において宣告した破産は破産者の財産にして日本にあるものについてのみその効力を有す」と定め、同条2項は、「外国において宣告した破産は日本にある財産についてはその効力を有せず」と定めていました(属地主義)。

倒産手続は、裁判所の手続であり国家行為である以上、国家の主権が及ばないところに効力を及ぼすことはできないということがその主たる理由でした。

しかし、国際的な経済活動が活発化した現代社会において、国内倒産手続の対外的効果と外国倒産手続の対内的効果を否定することは、対象資産の最大化、債権者平等、企業再建といった法の普遍的目的を阻害するといわざるを得ません。

そこで、2000年の旧破産法改正において、この点に関する規定が改正され(会社更生法も同年改正。これに先立つ1999年の民事再生法の制定においても同種の規定が盛り込まれた)、これが現行破産法に引き継がれています。

2国際裁判管轄の明定

破産法4条は、債務者が個人である場合には、日本国内にその営業所、住所、居所又は財産を有するとき、債務者が法人その他の社団又は財団である場合には、日本国内にその営業所、事務所又は財産を有するときに、破産申立に関する裁判管轄を認めています(民事再生法4条も同じ。なお、会社更生法は国内に営業所がある場合に限定している)。

上記規定の最大の特徴は、債務者が海外にいても破産申立を認める点です。

これは、国内債権者保護のために、国内に住所も居所も営業所もない債務者について、国内に財産があることを理由として破産申立ができるものとしたのです。
このように財産管轄を認めた趣旨からすれば、ここでいう「財産」とは、配当につながらないようなごく少額のものは含まないというべきだと考えられますが、オーバーローンであるというだけで「財産」ではないということにはならないと考えます。

ただし、負債は債権者にとっての引当てになるものではないため、マイナスの「財産」というわけではなく、ここにいう「財産」にはあたりません。

そのため本事例の場合は、日本に住所や居所がある場合はもちろん、A国に帰国して日本国内にオーバーローンのマンションだけが残っても、日本に破産の裁判管轄はあり、日本の裁判所への破産の申立ても可能です。

ただし、これが競売なり任意売却によって、債務者の所有物でなくなり、負債だけが残った場合には、日本に住所も居所も財産もない以上、破産申立もできないということになるでしょう。

3破産手続の対外的効力

破産法34条1項は、「破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産(日本国内にあるかどうかを問わない。)は、破産財団とする」と定めています。

また、同法3条は、外国人又は外国法人は、破産手続等に関し、「日本人又は日本法人と同一の地位を有する」と定めています(いずれの点も、民事再生法や会社更生法も同様の規定を置いている)。

したがって、本事例の事案において日本で破産が申し立てられた場合も、A国にある財産も破産財団に含まれますし、A国にいる債権者にも破産債権者として通知しなければなりません。

ただし、以上は日本法としての立場であって、倒産手続は裁判所の手続であり、日本国の主権が及ばないところに及ぶものではないという原則に変化はありません。

そこで、別に外国裁判所における日本の倒産手続の承認・援助という手続が必要になります。

4外国倒産手続の対内的効力

このことは、逆に外国倒産手続の対内的効力についても同様に問題になることです。

この問題に対応するために、2000年に「外国倒産処理手続の承認援助に関する法律」(以下、「承認援助法」という)が成立しました。

承認援助法にいう外国倒産処理手続とは、外国で申し立てられた、破産手続、再生手続、更生手続、又は特別清算手続をいいます(同法2条1項1号)。

そして、承認援助法は、外国倒産処理手続の承認の要件手続等について定めています。

外国倒産処理手続の承認は外国判決の承認と異なり、外国で認められている効果が日本国内でそのまま認められるものではなく、援助の処分をすることができる基礎として承認することを意味します(同法2条1項5号)。

そして、援助処分として、強制執行訴訟手続等他の手続の中止命令や、処分の禁止、弁済の禁止その他の処分などが定められています(同法3章)。

他方で、外国倒産処理手続が開始されても、日本での倒産手続の申立てができなくなるわけではありません。

複数の国家で同一債務者の倒産処理が進むことを並行倒産といいます。

この並行倒産の調整のために、破産法(11章)、民事再生法(11章)、会社更生法(10章)には、それぞれ「外国倒産処理手続がある場合の特則」が設けられています。

5UNCITRAL国際倒産モデル法の制定

UNCITRAL(国際連合国際商取引法委員会)では、1997年5月のUNCITRAL総会で国際倒産モデル法を採択し、同年12月の国連総会において加盟国に同モデル法を尊重した法整備を行うことを勧告する旨の決議がなされました。

1999年12月の民事再生法成立の際に盛り込まれた関係諸規定、2000年11月の破産法・会社更生法改正と承認援助法の成立は、いずれもこれに対応したものです。

A国法における倒産手続の裁判管轄や国内倒産手続の対外的効果と外国倒産手続の対内的効果は、A国法の定めるところではありますが、各国の国際倒産法制はおおむね前記モデル法を尊重した内容になっていくものと考えられます(もっとも、同モデル法の立法指針は消費者破産を適用除外とすることができるとされている)。