日常生活1

外国人の医療と健康保険についてご説明します。

法律相談

私(外国人)は、研修生として在留資格を得ましたが、入国時に定められた滞在期間が3か月とされています。このような場合でも、国民健康保険に加入できますか。在留資格がない場合はどうですか。

 

在留資格が、当初3か月であっても3か月を超える在留期間が見込まれる場合であれば、技能実習計画書などを証明書として、健康保険に加入できます。
在留資格がない場合は、原則として国民健康保険に加入することはできないので、それ以外の制度を利用することになります。

1国民健康保険の加入資格

国民健康保険法6条において、国民健康保険の適用対象としない場合が定められています。

在留期間が3か月以下や在留資格が「短期滞在」であるなどの場合には、外国人については、原則として国民健康保険には加入できないこととされています(国民健康保険法6条11号、同規則1条1号)。

ただし、入国当初の在留期間が3か月以下であっても、入国目的、入国後の生活状況を勘案し、3か月を超えて日本に滞在すると認められる場合には、国民健康保険に加入することができます。

その場合には、各々、在留目的に応じた雇用契約書や在留活動の説明書等の書類を参考資料として提出する必要があります。

在留資格が「短期滞在」の場合は、仮に長期滞在の蓋然性が証明できたとしても、加入できません。

本事例においては、在留資格が「研修」であれば、入国時に滞在期間が3か月以下と定められた場合でも、研修計画書などを証明資料として提出し、3か月を超えて日本に滞在することが明らかであれば、国民健康保険に加入することができます。

2在留資格と健康保険

また、国民健康保険の加入については、在留資格の有無によっても区別されることから、以下、問題点を説明します。

かつて、在留資格を有しない外国人が国民健康保険法の適用対象となるかが争われた事件において、【最判平成16・1・15民集58巻1号226頁】は、「当該外国人が、当該市町村を居住地とする外国人登録をして、入管法50条所定の在留特別許可を求めており、入国の経緯、入国時の在留資格の有無及び在留期間、その後における在留資格の更新又は変更の経緯、配偶者や子の有無及びその国籍等を含む家族に関する事情、日本における滞在期間、生活状況等に照らし、当該市町村の区域内で安定した生活を継続的に営み、将来にわたってこれを維持し続ける蓋然性が高い」場合には、国民健康保険法5条所定の「住所を有する者」に該当するとして同法の適用を認めました。

しかしながら、この判決後、厚生労働省は、在留資格を有しない外国人について、国民健康保険法の適用対象とはしないことを明確化する同施行規則の改正を行いました。

現在では、国民健康保険法6条11号、同施行規則1条1号により、在留資格のない外国人又は3か月以下の在留資格を認められた外国人は国民健康保険の被保険者になることができません。

もっとも、この法律・省令を形式的に適用すれば、日本人同様に生活の本拠としている者が医療の補助を受けられず、多大な不利益を被ることとなります。

そのため、在留資格がない場合でも、在留特別許可申請中の場合、国民健康保険への加入が認められるケースがあります。

また、難民認定申請中で仮滞在(入管法61条の2の4)を許可されている者や、一時庇護許可者(同法18条の2)については、在留資格がなくても国民健康保険に加入できます。

なお、近年の実務として、外国籍の老親を扶養するための特定活動が許可されにくいという実情があるようです。この場合において、医療目的の特定活動であれば、許可されることもあるようですが、この場合、国民健康保険法6条11号、同施行規則1条2号との関係で、国民健康保険の被保険者資格が問題になることがあるので、注意が必要です。

3在留資格がなくても適用される制度

2000年5月の質問主意書答弁書(平成12・5・26内閣参質147第26号「大脇雅子君提出外国人の医療と福祉に関する質問に対する答弁書」)は、入院助産(児童福祉法22条)・養育医療(母子保健法20条)・育成医療(児童福祉法20条)・母子手帳・予防接種については、在留資格の有無を問わず適用となることを明言しています(日本弁護士連合会〈日弁連〉パンフレット「非正規滞在外国人に対する行政サービス(2016)」)。

しかし、一部の地方自治体では、在留資格のないことを理由に、適用を拒否する例もあるそうですので、その場合には、厚生労働省に確認するように交渉することが必要でしょう。

また、予防接種については、1995年の「健医発962号保険医療局長通知」では、居住地不明の者については、母子手帳の提示により確認の上、接種を行うとされており、在留資格がなくても接種を受けることが可能です(予防接種法5条1項、同令1条の3)。

4地方自治体による対応

(1)行旅病人及行旅死亡人取扱法

1990年の(旧)厚生省による在留資格のない外国人に対する生活保護不適用方針を受けて、1994年以降、いくつかの地方自治体が在留資格のない外国人に対する行旅病人及行旅死亡人取扱法(以下、「行旅法」という)の適用を行っています。独自の予算措置を行っている地方自治体もあるようです。

ただし、行旅法はあくまで旅行者を対象とするという点からの限界があり、運用の実態としても、入院していること、住所がなく、就労もしていないこと、救護者がいないことが必要とされているようです。

(2)外国人未払医療費補塡事業

外国人未払医療費補填事業は、医療保険又は医療扶助の適用を受けない外国人の医療に関し、医療機関に発生した未払医療費について、地方自治体がこれを補填する制度です。

現在のところ、この制度を有する地方自治体の多くは、関東に集中しています。

前記のとおり「入院、定住所定職なし、救護者なし」の3要件を満たすことが求められる行旅法に比べ、地方自治体によって差はあるものの、外来も含めた緊急医療を対象とする未払医療費補填事業のほうが、適用範囲は広いといわれています。

他方、未払医療費補填事業は、地方自治体が独自に要項を作り、予算を立てて制度を発足させなければならないのに対し、行旅法は法的根拠があるので、事例が出た時点で補正予算対応をすることも可能であり、どの地方自治体でも使えるというメリットを持っています。