日常生活1

外国人であることを理由として賃貸借契約を締結しないことは違法であり、慰謝料等の損害賠償を請求できるという判例があります。

法律相談

部屋を借りようと思って、不動産仲介業者に賃貸物件の申込みをしようとしたら、外国人には部屋を貸せないと賃貸人が言っているので、無理だと断られました。外国人には部屋を貸さないということに問題はないのでしょうか?

外国人であることを理由に賃貸借契約の申込みを断ることは不法行為となります。したがって、慰謝料などの損害賠償を請求できます。

1外国人であることを理由に部屋を貸さないというのは違法

賃借の申込みに対して、賃貸人が、賃借人の国籍によって貸すか貸さないかを区別する合理的な理由はありません。

ところが、現実には、外国人が賃貸アパート・マンションを借りようと思っても、外国人との契約を拒否する賃貸人が大勢いるため、部屋を見つけるまで大変な苦労をします。

国籍や民族を理由とする賃貸借契約の拒否は、憲法14条(平等原則)の趣旨に反し、民法709条の不法行為として慰謝料等の損害賠償請求ができます。

2判例

【大阪地判平成5・6・18判夕844号183頁】は、賃貸借契約時に外国人でも契約できることを確認して申込書を受け取り、予約金を支払った者が、後に日本国籍でないことを理由に契約を拒否された事例です。

賃貸人と大阪府を被告とし、賃借権の確認と損害賠償を求めた裁判で、原告が支払った引越業者のキャンセル料1万7000円と慰謝料20万円、弁護士費用5万円の支払いが認められました。裁判所は、契約締結の中止を正当視する事情がない場合、一方的に中止することは許されず、在日韓国人であることを理由とする契約締結拒否は信義則に違反するものであり、契約の締結を期待したことによって被った損害を賠償すべき義務があるとしたのです(ただし、賃借権の確認請求は否定され、宅建業者を指導監督する義務を怠ったとした大阪府に対する請求は棄却)。

賃貸人が、申込書を見て外国人であることを理由に「韓国の人は難しい」といって断ったという事案(尼崎入居差別訴訟【大阪高判平成18・10・5判例集未登載】)では、判決は韓国人であることを理由として賃貸借契約の締結を拒否したことが、憲法14条(平等原則)の趣旨に反し、不法行為が成立すると判断し、慰謝料100万円(原告は夫妻2人)等の支払いを認めました(ただし、仲介業者に対する請求は棄却)。

電話で入居申込みをしてきたインド人に対して執拗に皮膚の色を問いただした不動産仲介業者に対し、慰謝料50万円の損害賠償を認めた判例【さいたま地判平成15・1・14判例集未登載】、家主が住民票の提出を要求し続けて提出がないことから契約を拒否した事案で、日本国籍がないことが拒否の理由であったことは明らかと認定し、日本国籍でないことを理由とする契約拒否は許されないと断じて、慰謝料など110万円を認めた判決【京都地判平成19・10・2判例集未搭載】などもあります。

このように、外国人であることを理由として賃貸借契約を締結しないことは違法であり、慰謝料等の損害賠償を請求できるというのが確立した判例です。

外国人は言語や習慣が違うから家を汚してしまう、近隣の人とトラブルになりやすい、家賃を支払わないでいなくなってしまうという心配があるから貸したくないという賃貸人もいるでしょう。

しかし、夜中に騒いで隣近所に迷惑をかける外国人がいたとしても、それは国籍ではなくその個人の問題にすぎず、「だから○○人はだめなんだ」となるはずはありません。

区分所有マンションの管理規約に「賃借する場合は日本国籍の者に限る」と定められている例があります。

このような管理規約が違法であることは当然です。

しかし、実際には、そのために賃借を断られた外国人が入居をあきらめた実例もあるようです。

3国と地方自治体の責任

外国人であることを理由とする入居拒否に対しては、事後的に損害賠償請求をすることはできますが、賃貸借契約の締結義務を認めた判決はありません。

入居差別をなくすためには、賃貸人の意識を変えることが重要であることはもちろんですが、国や地方自治体がこれを防止するための施策をとらないことには、いくら裁判を繰り返し、賃貸人の損害賠償義務を認める判決を積み重ねても、入居差別がなくなることはありません。

不動産仲介業者が、「日本国籍に限る」との条件を明示しても、監督・指導するべき都道府県は何らの是正をしようとはしません。

川崎市の「住宅基本条例」には、高齢者・障害者・外国人等であることをもって民間賃貸住宅への入居の機会が制約されることがあってはならないと規定します。

「世田谷区多様性を認め合い男女共同参画と多文化共生を推進する条例」は、「何人も、性別等の違い又は国籍、民族等の異なる人々の文化的違いによる不当な差別的取扱いをすることにより、他人の権利利益を侵害してはならない」と定めています。

2016年施行の「ヘイトスピーチ解消法」は、特定の民族や国籍の人々を排斥する差別的言動(ヘイトスピーチ)のない社会の実現のための基本理念を定める法律です。

差別的言動の解消が国や地方公共団体の責務であるとしており、同法の趣旨は、入居差別について国等が積極的な施策をすることにも通じます。

【大阪高判平成20・7・29判例集未搭載】は、大阪市の監督指導責任に基づく請求は棄却したものの、「控訴人が主張する立法措置については、今後被控訴人(大阪市)において十分検討すべきではある」と判示しました。入居差別があった場合、地方自治体が仲介業者や賃貸人に是正を求めることも必要となります。