家事事件

法律相談

私は、A国籍を有していますが、A国では異端とされる宗教を信仰しているため、何度も警察に捕まって拷問を受け、改宗を迫られたことから、日本へ逃げてきました。このまま日本にいたいと思いますが、どうしたらよいでしょうか。

 

居住地を管轄する地方出入国在留管理局に対し、難民認定申請書、証拠となる資料、顔写真等を提出して難民認定申請を行います。申請書や資料について、外国語で記載されたものについては日本語の訳文をつけなければなりません。

1難民認定制度

(1)難民とは

入管法2条3号の2は、難民について、「難民の地位に関する条約第1条の規定又は難民の地位に関する議定書第1条の規定により難民条約の適用を受ける難民をいう」と定義しています。

したがって、入管法でいう難民は、難民の地位に関する条約及び難民の地位に関する議定書にいう難民と同義であり、「人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けることができないもの又はそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まないもの及び常居所を有していた国の外にいる無国籍者であって、当該常居所を有していた国に帰ることができないもの又はそのような恐怖を有するために当該常居所を有していた国に帰ることを望まないもの」(難民の地位に関する条約1条A(2)、難民の地位に関する議定書1条)を指すことになります。

本事例の場合は、宗教を理由とする難民に該当する可能性があります。難民認定の手続は、入管法61条の2以下に規定されています。

(2)提出書類

難民として認定されるためには、まず、居住地を管轄する地方出入国在留管理局に対し、申請書及び証拠書類などを提出して難民認定申請を行います。提出する書類については、提出前にコピーをとっておくほうが、後日の検討のために便利です。

もし、コピーを忘れた場合には、個人情報開示請求によって取得することができます。

①申請書

入管規則により書式が定められていますので、これに記入して提出することになります。

地方出入国在留管理局では、日本語以外の言語で記載された申請書が配布されていますし、出入国在留管理局のホームページからも入手することができます。

申請書に外国語で記載した場合には、日本語の訳文を添付することが求められます。

申請書の記載は原則として本人が行うことが必要ですが、文字が書けない等の場合には、内容を口頭で陳述し、難民調査官が筆記する等の方法での申請が可能です。

さらに、在留資格を有さない外国人が、難民認定申請を行う場合、2005年改正入管法により、難民認定申請手続の中で在留特別許可の付与の判断も行うことになりました。

したがって、例えば、日本人と結婚しているなど難民であること以外に在留を特別に許可されるべき事情があるときは、その点についても、申請書に記載することになります。

また、申請後にそのような事情が発生した場合には、その点を補充する書面を提出することになります。

②証拠となる資料

難民該当性を立証する資料のほか、在留を特別に許可されるべき事情を立証する資料についても提出することになります。追完も可能です。

難民該当性を立証する資料には、大きく分けて、「出身国の一般的な情報についての資料」と「申請者本人の個別の事情についての資料」があります。

迫害国から逃れてきた申請者は、個別の事情について、十分な資料を持っていることはむしろ少なく、申請者の供述がほぼ唯一の立証資料であることも珍しくありません。

それだけに、申請者の供述の信用性は、慎重な検討が必要です。

なお、一部の事例では、ブローカー等が作成した偽造の逮捕状等が難民認定申請の証拠として提示されることがあり、後日偽造であることが判明すると、申請者の供述の信用性が大きく揺らぐことになります。

したがって、書類の成立の真正や入手経路等について、事前に十分な検討が必要です。

証拠資料についても、原則として日本語の訳文が必要であり、また、後日追完することも可能です。

(3)調査(インタビュー)

調査(インタビュー)は、難民調査官により行われます。

通訳を入れることも可能です。予め、難民申請書に、通訳を希望する言語を記入しておきます。その際、何か通訳について要望があれば(例えば、女性の申請者の場合に女性の通訳を希望する、同国人ではなく日本人の通訳を希望するなど)、それも書いておくとよいでしょう。

調査は、調査官の質問に対し申請者が回答するという方法で行われます。

ただ、この方法だと、申請者が重要であると考える点について、質問してもらえない危険もあります。そのような場合、積極的に自分から発言をすることが必要です。

また、質問の意味が理解できなかった場合には、聞き直して意味を確認してから回答することが重要です。

調査の後には、供述調書が作成されます。その際には、調査官が調書を読み聞かせてくれますので、自分が話したことと違うことが書かれていないか、自分が話したことで書かれていないことがないか十分に注意し、そのようなことがあった場合には、加除訂正をしてもらうことが大切です。

2審査請求手続

(1)審査請求手続とは

2016年4月施行の行政不服審査法全面改正(以下、「2016年改正法」という)に伴い、従前の難民不認定処分に対する異議申立手続が、審査請求手続に改正されました。

本項では、改正後の審査請求手続について述べます。

なお、2016年3月31日以前に不認定処分がなされていた場合には、その告知が同年4月1日以降であっても異議申立手続が行われますので、留意が必要です。

難民不認定処分を受けたが不服がある場合には、その通知を受けた日から7日以内に、審査請求書を地方出入国在留管理局に提出して、審査請求を行います(入管法61条の2の9第1項1号)。

審査請求書には、審査請求の理由は簡潔に書き、後日、申述書などで詳しい理由を述べることになります。

難民認定手続及び退去強制手続において作成された供述調書等の事件記録は、閲覧等請求書を提出して閲覧・写しの交付請求を行います。

事件記録に含まれていないものについては、情報公開により開示を受けることも考えられます。

審査請求後、不認定処分の理由や閲覧等を行った供述調書等を検討した上で、申述書、申述書に代わる書面又は意見書などを作成し、証拠を提出することになります。

その際、これまでの申請者の供述に矛盾や変遷がある場合には、その理由についてフォローしておくことが重要です。

また、審査請求の判断の際には、入管法61条の2の2第2項(在留資格にかかる許可)の適用はないというのが現在の入管の取扱いですが、実際には、審査請求段階において職権で在留特別許可がなされる例もあるので、難民該当性のみならず、それ以外の在留特別許可に係る事情についても主張・立証すべきことは、審査請求前の難民申請の段階と同様です。

(2)口頭意見陳述・質問

2005年施行の改正入管法により、難民審査参与員制度が導入されました。

難民審査参与員は、第三者諮問機関であり(入管法61条の2の9第1項・3項)、決定機関はあくまで法務大臣ですが、2016年施行の改正により、参与員が、従前の難民調査官に代わり、口頭意見陳述等を主宰することとなりました。

また、原処分庁が口頭意見陳述等に招集されることになりました。

審査請求手続においては、難民審査参与員が求める場合には、申立人に対し口頭で意見を述べる機会を与えなければならないとされています。

ただし、2回目の難民認定申請で前回とほぼ同一の理由で申請しているような場合は、申立人が口頭意見陳述を希望しても、行われないこともあるようです。

口頭意見陳述は、申立人本人のほか、代理人(弁護士に限らない)、参考人、補佐人、参加人などの資格で、申立人以外も行うことができますが、事前に許可を得ることが必要です。

2016年改正前の例では、申立人の過去の政治活動について知る同国人や日本での活動について知る日本人が参考人として参加したり、日本人の婚約者が代理人として参加したりした例があるようです(日本弁護士連合会人権擁護委員会編『難民認定実務マニュアル〈第2版〉』117頁、現代人文社、2017年)。

口頭意見陳述を行う際には、難民審査参与員に対し、分かりやすくアピールするような工夫も大切です。

また、2016年改正法により、従前の審尋に代わり質問が行われることになりました。質問も難民審査参与員が主宰します。2016年改正法によって、原処分庁も質問の対象者となりました。

ただし、同改正法は、参与員が招集の必要がないと判断したときには、原処分庁を口頭意見陳述に招集しないことができるとしています。

したがって、原処分庁に対し質問を行いたいときには、事前に原処分庁への質問の有無を照会された際に、その必要性について主張しておくことが必要です。

弁護士が代理人として口頭意見陳述や質問手続に参加した場合は、代理人としての意見を述べるのみならず、その場において申請者の供述に、従前の主張との変遷や、質問に十分に回答できていないなどの問題が生じた場合、これに対するフォローを行うことも大切です。

その場で十分なフォローができない事情があった場合には、後日、意見書等を提出することも考えられます。現在の実務においては、「期日後の書類提出は認めない」と予め告知されていますが、実際に提出すれば、受領されることが通常であると考えます。

時間的には、口頭意見陳述と質問をあわせて90分とされることが多いようですが、特に法文上の根拠があるわけではありません。難民審査参与員が必要と認める場合には、期日が続行されることもあります。

口頭意見陳述等終了後、作成された調書を閲覧し、写しの交付を請求することができます。

口頭意見陳述等の調書は、逐語ではなく要約されている部分も多いので、必ず閲覧等をし、誤りがあった場合には、文書で訂正の申立てをすることが重要です。

3訴訟

(1)難民不認定処分取消訴訟と在留特別許可不許可処分取消訴訟

難民不認定処分を受けた場合には、国を被告として難民不認定処分取消訴訟を提起することができます。

出訴期限は不認定処分を告知された日から6か月間ですが、審査請求を行った場合には、原処分の取消訴訟の出訴期限は、審査請求を却下若しくは棄却する決定が告知された日から進行します(行訴法14条)。

出訴期限を徒過した場合には、取消訴訟ではなく無効確認訴訟を提起することになります。

一般に、行政処分が無効であるためには重大かつ明白な瑕疵が必要とされていますが、難民不認定処分無効確認訴訟において、難民該当性があり、瑕疵が重大であれば(難民該当性を看過して不認定処分を行った場合には、その瑕疵が重大であることはいうまでもなぃ)、明白性の要件を不要と解したり、緩やかに解したりして、請求は認容されています。

したがって、出訴期限を徒過したからといって訴訟を断念する必要はありません。

実際にも、取消訴訟の出訴期間経過後に提訴し、難民該当性が認められ、無効確認が認められた判決例も複数あります。

難民不認定処分を受けた場合、
①審査請求を行い、審査請求が棄却された場合に原処分の取消訴訟を提起する、
②審査請求をせずに取消訴訟を提起する、
③審査請求と取消訴訟を同時に行う
ということが考えられます。

実務的には①の例が多いと思われます。

しかし、在留資格を持たない難民認定申請者に対しては、難民認定、不認定処分と同時に在留資格の取得許可ないし在留特別許可の処分もなされますが、在留特別許可不許可処分の出訴期限は、難民不認定について審査請求を行っていても、在留特別許可不許可処分の告知がされた日から進行します。

仮に出訴期限を徒過した場合には、無効確認請求訴訟を検討することになりますが、要件は取消訴訟より厳しくなります。

なお、処分後に事情の変更があった場合には、あわせて在留特別許可不許可処分の撤回義務付け訴訟についても検討することになります。

(2)その他の訴訟

その他、手続の進行により、退去強制令書発付処分の取消訴訟についても提起の検討が必要となります。

特に、難民不認定処分に対する審査請求が却下ないし棄却され、かつ、退去強制令書が発付されて収容されている場合には、送還の現実的危険性があるため、退去強制令書発付処分の取消訴訟に合わせて執行停止の申立てを行い、少なくとも送還部分について執行停止決定を得ておくことが重要です。