法律相談1

法務大臣は、退去強制事由に該当する外国人に対して、一定の場合には、退去強制することなく、在留を特別に許可することができます。これがいわゆる在留特別許可制度です(入管法50条)。

法律相談

私は日本在住の外国人女性です。「短期滞在」の在留資格で入国し、その後、非正規滞在状態となっていましたが、交際していた日本人男性と結婚したので、出入国在留管理局に対し、在留資格の付与を求めようと思います。在留資格は認められますか。

在留特別許可により、「日本人の配偶者等」の在留資格が認められる可能性があります。

1在留特別許可とは

法務大臣は、退去強制事由に該当する外国人に対して、一定の場合には、退去強制することなく、在留を特別に許可することができます。これがいわゆる在留特別許可制度です(入管法50条)。

一般的には、在留特別許可の可否は、「その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき」(同条1項4号)という要件に該当するか否かの問題となります。

在留特別許可の法的性質については、許可を与えるか否かが、法務大臣の自由裁量に委ねられているものに過ぎないという考え方のほか、外国人に対し一定の法的権利を認めるものであるとする見解もあります。

2在留特別許可の手続について

(1)出頭及び入国警備官の調査について

在留特別許可を得ることを目的とするのであれば、出入国在留管理局や警察に検挙されるよりも前に、自ら管轄の地方出入国在留管理局の警備課に出頭することが望ましいといえます。

初期段階から、可能な限り自らの置かれている状況を理解してもらうために、出頭時には、本人だけでなく、結婚した日本人の男性(もしいれば子どもも)の同伴が望ましいでしょう。

この段階では、事実上話を聞かれたり、提出すべき資料を指示されたりすることが多く、直ちに身体拘束される例は多くは存在しないようです。

後日、入国警備官による違反調査が行われ(入管法27条)、当該外国人や関係者に対して、事情聴取や聞き込み調査が行われます。

(2)入国審査官による違反審査及び仮放免

入国警備官の違反調査が終了した段階で、入国警備官によって収集された資料とともに、身柄が入国審査官に引き渡されます。

出入国在留管理局は、退去強制手続をするに際しては、当該外国人を収容するという建前をとっていますが(全件収容主義)、この収容を解く制度として仮放免があります(入管法54条)

外国人が自ら出頭した場合、最近では、出入国在留管理局は当該外国人を一度形式的に収容し、即時に仮放免をするという対応をとる例が多くなっています。

仮放免許可の条件として、保証金を納付する必要がありますが、本事例のような婚姻に基づく本人の出頭事案においては、約5万円から30万円が一応の基準であるといわれています(事例によっては保証金が不要とされることもある)。

なお、出頭する前に摘発された場合には、当該外国人はそのまま収容されることになり、自ら申請をしなければ、仮放免が認められるのはかなり困難なのが実情です。

入国審査官による違反審査が終了した時点で、退去強制事由に該当するとの認定がされた場合には、上記認定が記載された認定通知書(同法47条3項)が交付されます。同時に、入国審査官から、通知を受けた日から3日以内に口頭審理請求ができる旨の告知がされます(同4項)。

(3)特別審理官による口頭審理

口頭審理請求がされると、事件は特別審理官に引き渡され、特別審理官による口頭審理が行われます(入管法48条)。

口頭審理は、代理人の立会い、証拠提出、証人の尋問が認められており、特別審理官の許可を受けて、親族や知人の1人を立ち合わせることができます(同法48条5項、10条3項ないし6項)。

本事例でも、口頭審理において配偶者を立ち合わせることが考えられます。

在留特別許可を求める事案においては、口頭審理の場で、違反調査の結果に誤りがないことを示す判定通知書が交付されます(同法48条8項)。

この場で速やかに、異議申立書(同法49条1項)に在留特別許可を求める旨を記載して、特別審理官に交付します。

(4)法務大臣・出入国在留管理局長の裁決

この異議申立の後は、地方出入国在留管理局長の裁決(法務大臣から委任を受けている。入管法69条の2、入管規則61条の2第11号)により、在留特別許可がされることを待ちます。

3ガイドラインについて

在留特別許可の裁決は、自由裁量で行われるものとする見解もありますが、出入国在留管理局が開示している「在留特別許可に係るガイドライン」(2009年7月改定、以下、「ガイドライン」という)によれば、おおよそ婚姻事案における在留特別許可取得の要件については、
①日本人との真正な婚姻(相当期間の共同生活、相互扶助、子の有無)、
②素行の善良性、
③自ら出頭したかどうか、
によって判断されることが多いとされています。

また、出頭時に提出する陳述書が、事実に基づいているかどうかも認定の資料とされるので、出頭時の段階から、陳述書の作成を正確にするべきです。

そして、自らに有利な資料があれば、出入国在留管理局からの要求がなくとも、積極的に提出しておくべきです。

上記のガイドラインに加えて、出入国在留管理局は、在留特別許可に関する過去の事案をホームページ上で公表しています(法務省出入国在留管理局「在留特別許可された事例及び在留特別許可されなかった事例について」参照)。

もっとも、これは出入国在留管理局が一部の事案を選別して公表しているものに過ぎないことには注意が必要です。

4刑事処分

(1)刑事事件が先行する場合

なお、本事例のように非正規滞在(オーバーステイ)の外国人が自主的に出頭したことにより退去強制手続が開始するケースとは異なり、刑事事件の勾留に引き続き退去強制手続に付されるケースがあります。

有罪判決を受けたことが退去強制事由に該当するものとして、
①実刑判決の確定を要するもの(入管法24条4号リ)、
②執行猶予付も含む判決の確定を要するもの(同条4号ニ~チ、4号の2、4号の4)、
③判決の確定を要しないもの(上記以外)
があります。

①の場合には服役が先行することになります。

②の場合には判決言渡し後、いったん釈放され、判決確定後に退去強制手続が開始して、収容の対象となることがあります。

③の場合には判決言渡し後、直ちに収容の対象となることがあります。

服役した外国人に対して、退去強制手続が開始する場合として、上記のように有罪判決が退去強制事由に該当する場合のほか、服役中に在留期限を過ぎてオーバーステイになる場合もあります。

退去強制手続は、服役中であっても行うことができるとされており(入管法63条1項)、服役を終えた時点で既に退去強制令書が出ているということもありますので、注意が必要です。

これらのケースであっても、自主出頭のケースと手続の流れは変わりません。もっとも、仮放免については、自ら申請をしなければ認められるのはかなり困難なのが実情です。

(2)不法残留による刑事処分との関係

また、本事例のように、入国時には適法であったものの、その後非正規滞在になった者に対しては、不法残留に対する罪で処罰される場合があります(入管法70条)。

これまで述べた出入国在留管理局の手続と刑事処分は別個であり、在留特別許可が得られる可能性の高い場合でも刑事処分がされることもあります。

しかし、刑事手続で有罪と判断された場合であっても、日本人配偶者と安定した婚姻関係にあるなど考慮されるべき積極要素が認められるときは、在留特別許可が得られる場合もあります。