法律相談2

法律相談

 

先日私が宝石店Xに入ってショーケースを眺めていたら、店員から出身国を尋ねられ、答えた途端に「外国人の立入りは禁止である」と告げられるなどして、店から追い出されました。こんなことが許されてよいのでしょうか。

本事例のようなケースでは、人格的名誉が傷つけられたことを理由として、不法行為に基づく慰謝料を請求できる場合があります。

1損害賠償請求

Xの行為は、相談者が外国人であるという理由で相談者の入店を拒否するものであり、人種差別にあたります。

憲法14条1項や国際人権規約等の条約は、人種によって差別されないという基本的人権を規定しています。

憲法等の規定は、原則として国家権力との関係で人権を保障するもので、私人間では直接適用されないと考えられているものの、民法709条(不法行為に基づく損害賠償請求)等私法の規定を解釈するにあたっての、基準の1つになると考えられています【最大判昭和48・12・12民集27巻11号1536頁、最判昭和49・7・19民集28巻5号790頁】。

Xは、自分の店をどのように営業するかについて、自由に決定できるという意味で、営業の自由を有しており、誰を入店させる、又はさせないという選択をする自由があるようにも思えます。

しかし、そのような自由も、社会的に許容できる限度を超えて、他人の基本的な自由や平等を侵害するものであってはならないでしょう。

社会的に許容できる限度を超えた行為は、違法な行為として慰謝料等の損害賠償請求の対象となるべきです。

本事例のモデルとなったケース【静岡地浜松支判平成11・10・12判夕1045号216頁】は、原告が店員から出身国を尋ねられ、国を答えた途端に「外国人の立入りは禁止である」と告げられ、理由を尋ねると「外国人入店お断り」というビラを見せられたり、警察を呼ばれたりしたといった事案でした。

このような事実関係のもと、裁判所は、店側が外国人を異質なものとして邪険に扱い、犯罪予備軍的に取り扱ったのは妥当でなく、原告の人格的名誉を傷つけたとして、民法709条に基づき、店側に慰謝料及び弁護士費用を併せて150万円の損害賠償責任を認めました。

裁判所の判断は、個別の事案についての判断であるため、入店を拒否されたからといって、必ず損害賠償請求が認められるわけではありませんが、入店拒否の経緯や、店側の対応いかんによっては、社会的に許容される限度を超える違法な人種差別と判断される場合があるでしょう。

2その他のケース

本事例のようなケースの他にも、外国人に対する差別が問題となった例として、①中国から帰化した日本人が、飲食店において、外国人ないし外国生まれであることを理由に退店を求められ、また、入店を拒否されたことに対し、78万円の損害賠償責任を認めた【東京高判平成17・3・31判例集未登載】、②公衆浴場の経営者が外国人の入浴を一律に拒否するという方法で外国人や外国人に見える者の入浴を拒否したことが、人種差別にあたるとして損害賠償責任を認めた【札幌地判平成14・11・11判夕1150号185頁】などがあります。

3国と地方自治体の責任

2016年6月3日施行のヘイトスピーチ解消法は、特定の民族や国籍の人々を排斥する差別的言動(ヘイトスピーチ)のない社会の実現のための基本理念を定める法律です。

差別的言動の解消が国や地方公共団体の責務であるとしており、同法の趣旨は、入店差別について国等が積極的な施策をすることにも通じます。

東京弁護士会は、ヘイトスピーチ解消法の施行を受けて、2018年6月7日、地方公共団体に人種差別撤廃条例の制定を求め、人種差別撤廃モデル条例案を提案することに関する意見書を発表しました(https://www.toben.or.jp/message/ikensyo/post-506.html)。

今後、国や地方自治体が、入店差別を含む人種差別を撤廃するための施策を講じて行くことが強く求められています。