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法律相談

 

外国人が交通事故の被害にあった場合、損害賠償金額は日本人と異なるのでしょうか。在留資格の有無やその内容によって違いがあるのかを教えてください。

基本的には日本人と異なりません。後遺障害の逸失利益の算定方法について在留期間や在留資格の有無で異なることがあります。慰謝料額については判例が分かれています。

1原則は日本人と異ならない

日本に定住する外国人については、日本国籍でないことを理由に損害賠償の算定方法に違いが生じることはありません。

また、治療費や通院交通費などの実費入通院期間中の休業損害については、在留資格の有無や内容によって異なることもありません。

就労可能な在留資格を持っていない、あるいは在留資格がない外国人でも、現実に得ていた収入額を基礎として休業損害を加害者に請求できます。

【最判平成9・1・28民集51巻1号78頁】は、機械の操作中に受傷した不法就労のパキスタン人の休業損害について、日本で現に得ていた実収入を基礎に休業損害を算定しました。その後の判例はこの最判に従っています【名古屋地判平成16・6・30交民37巻3号867頁】【神戸地判平成18・11・24交民39巻6号1645頁】。

2後遺障害死亡による逸失利益

就労可能な在留資格を持っていない、あるいは、在留資格がない外国人が後遺障害を負ったり死亡したりした場合、逸失利益はどう考えられるでしょうか。

その外国人の母国の物価水準や平均収入が日本のそれより低廉である場合にその算定方法が問題となります。

裁判では、【前記最判平成9・1・28】が在留資格のないパキスタン人の労災事故に関し、予測される日本での滞在期間内は日本での収入を基礎とし、その後は母国などの出国先での収入などを基礎とするとの考え方を示し
た上で、退社後3年間は日本で現実に得ていた収入を基礎とし、その後はパキスタンでの稼働時の年収36万円を基礎として逸失利益を算定した原審の判断を是認しました。

その後、同様の事例では事故後3年程度は日本での現実の収入を基礎とし、その後は母国の基準(来日前の収入や当該国の平均賃金統計など)で算定することが多いようです。

在留期間が定められている在留資格では、その在留期間に応じた日本での稼働を基準としますが、在留資格の変更後に得られたであろう利益で算出する例もあります。

留学生が、卒業後も日本国内で仕事をする蓋然性が高いとして、日本の賃金水準で算定した例として、中国人の大学院生の死亡事故(31歳)について、大学院の博士前期課程終了後の32歳から10年間は日本の水準、その後は中国の水準(日本の賃金センサスの3分の1)で算定した例【東京地判平成10・3・25交民31巻2号441頁】などがあります。

3後遺障害・死亡慰謝料

在留資格がない、あるいは在留期間が限られている外国人の後遺障害・死亡慰謝料はどのように考えられるでしょうか。

この点について最高裁判例はありませんが、日本人と比較し、低めに算定する裁判例も見られます。

しかし、同じ人間である以上、精神的な損害を慰謝するための慰謝料を低く算定する合理的根拠はないといえます。

【名古屋地判平成16・9・29交民37巻5号1341頁】は、中国人留学生(25歳)の死亡事故について、中国と日本とでは物価水準及び所得水準に相違があり、慰謝料の算定には経済的事情を加味すべきとする被告の主張を排斥し、死亡慰謝料を両親固有の慰謝料と合わせて2100万円と算定しました。

死亡・後遺障害の慰謝料は、被害者が得ていた収入によって異なる算定はしません。日本国内の地域格差(例えば、地方間の物価水準の違い)も問題とはなりません。

外国人のみが慰謝料の算定について、被害者や相続人の居住地による経済水準を問題とするのは平等とはいえません。故意や重過失の事案(殺人、傷害、強姦、人身売買、劣悪な環境下での労働事故等)において、被害者や被害者遺族の居住地が日本よりも経済水準が低いことをもって慰謝料を減額することは、社会正義に反するものといえるでしょう。【京都地判平成5・11・25判時1480号136頁】が、スリランカ人の人身売買の事例で慰謝料1200万円とし、スリランカの物価水準が日本よりも低いことを考慮しなかったのは、当然といえます。

交通事故の慰謝料の算定については、被害者の個別事情を考慮することなく定額化するのが判例の考え方です。外国人についてのみその属性を考慮することは不合理な差別的扱いであるというほかありません。このような裁判例は是正されるべきです。

なお、自動車賠償責任(自賠責)保険は、国籍や遺族の居住地によって差異を設けることはありませんので、後遺障害や死亡の事案については、訴訟の前に自賠責の被害者請求をすることがよいと考えられます。